亀の怪談
近年の話なら、会社でも公共施設でも、警備関係の仕事は、専門の業者が入っているのがほとんどだろうと思います。
でも、かつては、「夜警」の業務を職員がもちまわりでこなしていた時期というものがありました。
今回の最初の話題は、そんな時代のお話です。
舞台は、東京都、上野動物園です。
むかし、むかし(・・・・・というのは、大げさですが)、ある飼育係員さんが夜警の当番にあたった夜のことです。
私の大学時代に、卒論でお世話になった上野動物園で聞いた話ですね。
動物園にどろぼうに入ろう・・・という、不心得者がいるとは思いたくありませんが、夜間の巡回というのは、むしろ、飼育している多種多様の動物たちに異常(ケガとか急病)がおきていないか・・・・・を確認して回ることが最大の目的でした。
園内を一巡して、異常なし・・・・・、控え室にもどろうとしていた、ある夏の夜のことです。
彼は、だれもいないはずの部屋から、物音がするのに気がつきました。
どろぼうか?!
(事務室でしたから、動物が出している音ではないわけです)
思わず身構えまして、そっとその部屋に近づきました。
カツーン、コツーン・・・・・・・・
ずいぶん以前の話ですから、その事務室、コンクリート打ちっぱなしのそっけのない部屋で、その中から、なにかがコンクリートにぶつかる音が確かに聞こえています。
泥棒なら、対処しなければなりません。
デッキブラシかなんか(武器です、武器)、構えまして、ドアをガラリと開き、
「だれだ?!」
・・・・・・・・誰何したのですが、なぜか、室内は無人です。
あれっ?
みまわしても、どこにも泥棒らしき姿は見つかりません。
おかしいなぁ、空耳だったのだろうか?
まぁ、怪しいヤツがいないのなら、それで問題ないや・・・・・・・
そう思って、電灯を消し、部屋の外に出ます。
廊下をすこし歩くと、また、さっきの部屋の方向から
カツーン・・・・・・コツーン・・・・・・
おのれぇっ!、どこかに隠れていたのか?!
部屋に駆け戻って、扉をガラリと開き、電灯をつけて・・・・・・・・・・
でも、音はピタリと止み、部屋の中には、だれ1人として存在していないのです。
どこだ、どこにいる?
机のまわりを歩いて、調べてみるのですが・・・・・・・だれも、いない。
いない・・・・・となると、背筋が寒くなります。
夏の深夜、陰にこもって谷中の鐘がゴ〜〜ン・・・・・・と鳴ったかどうか知りませんが、とにかく、ゾッとしてしまって、そのまま控え室に駆け戻り、布団をかぶって朝をまったそうです。
その間も、例の無人の事務室からは、時折、なにかがコンクリートにぶつかるような音が
カツーン・・・・・・コツーン・・・・・・・
はい、これが、上野動物園の怪談ですね。
で、どういうオチだったのか・・・・・というと・・・・・・
翌朝、完全に明るくなってから、例の事務室を調べなおしたところ、どこからまぎれこんだのか、大きな亀さんが床を歩いておりました。
上野動物園の一角には、不忍池があります。
ここには、多数の亀さんたちが住んでいるのですが、おそらく、そういう亀の1匹が、なにかの拍子に園内の事務室に入り込み、出られなくなって、そのまま夜になってしまったものと思われます。
亀は、池にもどりたいわけですから、真っ暗な事務室の中で出口をさがしてウロウロ。
硬い甲羅がうちっぱなしのコンクリートに時々ぶつかって、出ていた音が
カツーン、コツーン
夜間巡視の人間がドカドカ駆け込んできたら、亀もびっくりして、歩くのをやめ、じっとしていますから、音が消えてしまうのです。
当然、昼間も同じ音が出ていただろうと思われるのですが、雑音の多い時間帯には、だれも気づかなかったことになります。
だれもいない静かな夜だったから、昼間と違って、この音が不気味に響き渡っていた・・・・・というわけだったんです。
もちろん、捕獲された亀さんは、無事、住処の不忍池に放されたそうです。
めでたし、めでたし。
これ、聞いた時には、思いっきり大笑いをしたのですが、体験した本人にしてみれば、笑い事じゃなかったんだろうと思われます。
そして、何年かがたちました。
私は、結婚して岡崎にある集合住宅に住んでおりました。
我が家があったのは、見晴らしのよい4Fです。
南側がベランダになっており、洗濯物を干すのにも、植木鉢で植物を育てるのにも、絶好の環境でした。
ある夜のこと。
たまたま、夫が出張で不在。
すでに、子供たちはベッドで寝てしまった深夜のことです。
フと気づくと、なにかベランダに気配がある。
えっ・・・・・・・・・・・
耳をすますと、ベランダをだれかが歩いているような音がするのです。
カツーン・・・・・・コツーン・・・・・・・・
ゾッとしました。
夫、不在なんです。
泥棒がいるのなら、なによりも、2人の子供を守らなければなりません!
どうしたらいいのだろう?
まだ、室内に入って来てはいないのですから、人が起きていることをハッキリさせて、泥棒に逃げてもらうのが一番いいのではないか?
そう思って、すべての電灯のスイッチをつけました。
音が止まります。
どうしたらいいのか、この先、わかんなくってねぇ・・・・・・・
何をパニック起こしたのか、子供のバットなんか手にもって、ベランダをのぞいて見たんですよ。
(後で考えたら、こんなこと、かえって危険だっただろうと思うのですが。苦笑)
でも・・・・・・・・・・
予想に反して、なぁんにもいないんだわ、これが。
ホッ。
どうやら、あやしいヤツは、サッサと逃げてくれたらしい。
よかったぁ・・・・・・・・安心しまして、無用な電灯を消したんですよ。
で、自室にもどって、読みかけの本なんか開いたりしたら・・・・・・
またも、ベランダから
カツーン・・・・・・・コツーン・・・・・・・・
まだ、いたのかっ!!
(いや、危険だから、よしなさいって言いたいんですが)
さっきのバットを持って、電灯をつけ、窓を開いてベランダに飛び出しました!
そこに、泥棒が立っていたとしたら、大問題だったのですが、あるのは、暗い闇ばかり。
深夜のベランダ、だれかが居ても問題ですが、音だけあって、だ〜れも居なければ、別の意味で大問題!!
当然、ここで私の脳裏には、上野動物園で聞いた「大笑いの怪談話」がよみがえります。
どこかからか迷い込んだ、池の亀さんが、ベランダのコンクリート壁にぶつかって、
カツーン、コツーン・・・・・・・・・・・
我が家があるのは、4階なんだってば。
どう考えても、池から亀さんが登ってくる場所じゃありません。
(そもそも、近くに池、無いし)
何年か前に、怖い思いをした飼育係りさんを笑いとばした私が、今度は、頭からフトンをかぶって、朝まで震えておりました。
で、この「岡崎の怪談」がどういうオチだったのかというと・・・・・・・・・
翌朝、半分ボケた顔をして、とりあえず、ベランダに洗濯物を干していたら、お隣からKさんがヒョイと我が家の方に顔をのぞかせました。
「ねぇ、もしかして、そっちに、ウチの亀、逃げ込んでいないかしら?」
亀??!!
「息子のペットの亀が、逃げちゃって、どこにもいないのよ。」
カメぇ〜っ!!!!!
植木鉢やプランターの陰をバタバタとのぞいて回ったら・・・・・・・いました。
亀。
甲羅がコンクリートにぶつかって、今朝もカツーン、コツーン。
もちろん、即刻ゲットして、お隣にお引取り願いましたとも!!
本日の教訓
たとえ、4階のベランダでも、亀が迷い込む可能性は存在している!
たのむ。
爬虫類を飼育するのなら、絶対に逃がさない工夫をしてくれ。
あの夜、私、間違いなく寿命が縮む思いをしたんだから・・・・・・・
もどります
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||