スライムの話


スライムという単語を聞くと、ゲーム好きな人は、たいていドラゴンクエスト・シリーズに登場する水滴型で水色の魔物を連想するのではないでしょうか?

他の有名RPGなどにもスライムの類はあちこちで登場しているのですが、粘液状のベチョッとした姿をしていたり(きっと印象が美しくないんですな)中途半端な強さの魔物だったりして、いまいち、そちらを連想する人は少ないようです。

DQシリーズに登場する、最弱の魔物「スライム」。毎回、冒険をスタートした勇者達が最初にバトルする相手として、あまりにも有名です。
なんか、最初のバトルにスライム以外の魔物がでてくると・・・がっかりしたりします。
この魔物のデザインを担当したのは、鳥山明さん。「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」などの作者として、よく知られているマンガ家さんです。


以前、私が勤めていた国立研究所で、仕事場を一日開放して、一般の人々に見てもらうという「一般公開」がありました。
日頃、世界の最先端をめざす研究が行われている研究所ですが、この一般公開が予定されている期日が近づくと、どうやって自分達のやっている仕事をわかりやすい言葉で見学に来て下さった人々に説明するか・・・皆、いろいろと準備し、考えるわけです。
パネルを作ったり、実験材料を展示したり、説明の練習をしたり・・・そりゃもう、勤務時間外でも大忙しです。

ある研究室では、机を並べてそこにズラリと実体顕微鏡を設置しました。
その部屋では、研究材料として「粘菌(細胞性粘菌)」を使っていたので、まずは、その「粘菌」の実物を見てもらおうとしたのです。

見たことがありますか?「粘菌」

生物の教科書に「ムラサキホコリカビ」とか、いくつかが登場したはずですが、あまり実生活でじっくりと見ることはないかもしれません。

「一般公開」にそなえて顕微鏡のセッティングにおわれている担当者に、他の部屋の職員達が「粘菌」を見せてもらっています。
適当にステージ(粘菌の一生のうちのいろいろの段階)をずらして展示し、「粘菌」の一生を順番に見ていけるようにしたらどうだろうか・・・などと、アイデアを出し合っているんですね。
私も話の種に見せてもらいました。

「粘菌」は胞子から生まれ、時間がたつにつれて姿かたちがかなり変化していく生物です。
私は、その特定の段階で、水滴のような文字通りDQの「スライム」状態になる時期(子実体になる寸前)があるのだという話を聞いていました。
でも、なかなか実物を見る機会はなかったんですね。
「粘菌」にもいろんな種類がありますが、ちょうどその研究室で使用している「粘菌」はDQスライムになってくれるタイプのものだったんです。

「ドラクエのスライム形になっているヤツ、ある?」
「それなら、このあたりのヤツかな・・・」

顕微鏡をのぞいたら、すきとおった水滴に似た小さな小さなスライムがいっぱい!!
まさしくDQに登場するスライムの極小パターンです。
かわいいっ!!
(残念ながら、水色やオレンジ色のヤツは、いないんですよ)
でも、これは、ミクロのDQの世界と言っちゃっていいでしょう。

うれしくなった私は、家にあった「メタルスライム」のぬいぐるみ(エニックス製・これが一番色が似ていたのです)をかかえてくると、顕微鏡の近くに置き、ついでにポスターを描きました。

ボクは、ゲームのスライム。
 ここにいるのは、現実の世界のスライム。
 ぜひ、見ていってね


稚拙なポスターだったのですが、一般公開当日、これが大当たりしました。
皆さん、スライムを見たがるわけですよ。

なんか、他のステージの粘菌は、いつのまにかかたづけられてしまって、DQ「スライム」状態の見られる顕微鏡がズラッと並んでいるのです。
担当者さんが、ちゃんと時間を調節して、ちょうど「スライム」型になった粘菌をセットしなおしているわけです。

TVゲームの影響力がどんなにすごいものか、改めて感心したものでした。

後日、
「あれほど粘菌が一般人の評判になったことは、いまだかつてなかった」
と言い切ったその研究室の棚の上には、いつの間にか「スライム」のぬいぐるみが飾られておりました。
買ってきたんだろうねぇ、だれかが。笑


それにしても、鳥山明さんは、よく「粘菌」を研究して、その特徴をとらえた魔物をデザインしたものだ・・・と驚嘆しまして、メーカーにお手紙を出したんですよ。
その「粘菌」の写真を同封しましてね。笑
そうしたら、DQの広報を担当している人でしょうか、なんと、お返事が来たのです。

それによれば、DQのスライムのデザインは、完全に鳥山明さんの頭の中でできあがったもの(オリジナル)であって、現実の世界のスライムが元になったものではなかったのだそうです。
現実の世界に、まったく同じ姿かたちの「スライム」が存在したことを、とても興味深いと思う・・・というおたよりでした。

へぇ〜っ!

つまり、鳥山さんがオリジナルでデザインした魔物のそっくりさんが、偶然にも実在していたっていう話になるわけです。

事実は小説よりも奇なり」です。

鳥山さんのセンスのすばらしさも、もちろんですが、私はこの偶然の一致に驚かずにはいられませんでした。
私たちが知らないだけで、さがせば、まだまだビックリするようなことは、この世界にいっぱいありそうな気がしますね。

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