ゼロの笑点



なんということもない連絡事項を書いた、小さなメモ用紙が1枚。キマリは飛空挺の中で個々に割り当てられたメンバーの部屋を回る。次々に了解をもらって、残ったのはここ、アーロンの部屋。ノックを2回。メモ用紙を一瞥したアーロンが、コクリとうなずいて、用事はあっさりと終わってしまった。

アーロンは最近入手した真新しい「陽炎」を手に複雑な表情を浮かべている。
問題が起きるような伝言は持ってきてはいないはずなのだが・・・キマリはもう一度手持ちのメモを読み返した。単なる事務連絡である。

「何か気がかりなことでもあったのか?」
「・・・・むぅ・・・・」
こいう場合は待てばいい。経験がキマリに教えていた。はたして、ほどなくアーロンはキマリに向かって「陽炎」をさしだした。
「こいつになにか感じるか?」
「?」
キマリは手渡された太刀をじっくりと見た。
先日、海中に沈んだ いにしえの寺院跡を探検したティーダ・ワッカ・リュックが、持ち帰った武器のひとつだったはずだ。なにやら巨大な魔物と戦うはめになって、それを倒したところ 魔物が消えうせた跡にこの太刀が残されていたというのだ。
アーロンが戦闘時に受け持つ魔物は圧倒的に硬い外殻を持つ物が多い。そのせいで、ほかのメンバーに比べて武器の損傷もはげしかった。彼は「正宗」と呼ばれる極めて攻撃力の高い愛刀を持っているが、使用後の磨ぎもままならぬ今、もはやザコでしかない魔物にそれを使用することはなかった。
今日もティーダに乞われて、魔物の捕獲にでかけた彼は この「陽炎」をたずさえていたはずである。
(一度入手した捕獲用の武器はティーダにひっぱりまわされる間に刃こぼれし、とっくに使い物にならなくなっていた。)

「これがどうかしたのか?」
「・・・・わからん。」
室内にいるのがキマリだけという気安さからか、アーロンは露骨に不満そうな表情を示した。
「特別なものは何も感じない・・・のだが、これ以外に理由が思い当たらないのだ。」
「?」
「おまえ、今日 変だとは思わなかったか?まぁ、たまにはあまり魔物にあうことなく旅程をこなせる日もあることはある。が、今日は明らかに異常だ。俺達は ただの1度も魔物と出会うことがなかった。こんな体験は初めてだ。」
それはキマリにとっても不思議なことだった。ティーダ・アーロンとともに魔物の捕獲に同行したキマリは、ほぼ半日を費やしたにもかかわらず、魔物の姿をみることなく帰還したのである。
「俺は持ち物を全部点検した。これ以外は以前からたずさえているものばかりだった。今しがた、ティーダにも確認を取った。特別なものは持っていないという返事だった。おまえは?」
キマリは慎重に記憶をたぐったが、結果は首を横にふるだけだった。
「変だろう?」
コクコク。

アーロンは再び手にした太刀を見つめている。・・・そういえば・・・キマリは一つだけ気になることを思い出した。
「アーロン・・・笑うかもしれないが・・・聞いてくれるか?」
「?」
「実は・・・ロンゾ族には、特定の魔物の言葉を聞き取る力が備わっている。多数の種族の言葉がわかる者もいれば 1〜2種だけしかわからない者もいるのだが・・・」
「キマリにも わかるのか?」
「クアールの仲間の物はかなり良く聞き取れる。」

・・・なんか納得できそうな気がする・・・とアーロンは思った。

「今日 魔物の言葉を聞いた。子供とそれを連れている母親の会話だと思った。」
「内容は?」
キマリはちょっと言いにくそうに眉間にしわをよせた。
お母さん あれ なあに?・・・見るんじゃ ありません!
「は?!」

なんか ものすごく屈辱感のある言われ方じゃないのか・・・

アーロンは、「陽炎」をパッと持ち上げると 表・裏ともにじっくりながめた。
「なにか 見えるか?」
「まったく なにも。」
「・・・・・・・」
2人が頭をかかえこんだ時だった。前触れなしに空間がゆらめいた。

     
うわぅ〜ン!!


さも当然のような顔をして出現した「犬」一頭。ちぎれるほどに尻尾を振って、アーロンめがけてジャンプ・しがみつき・ぺろぺろぺろぺろ・・・・う・・・こいつ、もしかして・・・
「ダイゴロウ?」
ワン!呼ばれて 顔だけキマリに向けて良い返事(?)
見ればアーロンは、あきらめたように「犬」の好きなようにさせている。初めてじゃないのですね、キマリは部屋のドアをロックした。
直後にもう一度空間がゆらめく。キマリにとっては初めてお目にかかる「用心棒」の祈り子様が立っていた。

「変わりないか?」
「あるわけがなかろう。おまえは昨夜も来ていたではないか・・・」
「ま、かたいことはぬきにしようぜ。オレはここが気にいっているのだから。」

・・あ〜また この人、しなくてもいい苦労をしてる・・・キマリの目に憐憫の光。

「それほどヒマか?」
「ヒマだ、ヒマだ。寺院に安置されている祈り子は、多数の召喚師と交感することもできるし、自然とお呼びも多くなる。しかしオレの祈り子像はナギ平原のわき道の先。たどりつけるだけの召喚師は ざらにはいない。ついでに せっかく契約をはたしてもお呼びがかかるのは極わずかときたものだ。」
「おまえが召喚される度にこころづけをせがむからだろう。」
「ただ働きは性に合わん。が、アーロン もし おまえがオレを召喚してくれるのなら、この腕無償で貸し与えてやってもいいぞ。」
「いらん。毎回毎回ダイゴロウが飛び掛るのがオチに決まっている。」

やる気満々「祈り子様の犬」。

「そういうことを言うかぁ?信用ないな〜。一撃必殺大盤振る舞い有りだぞ。」
しかし、アーロンは「犬」の首筋をコリコリとかいてやりながら シレッと一言、
「俺はいいから、ユウナとの好感度を上げてくれ。」
祈り子様は豪快に笑い飛ばした。そして、フと目をとめたのが「陽炎」。

「おや?」
手に取ってなぜかニヤリ。
珍しいものをもっているじゃないか。」
腕をまっすぐ伸ばして太刀をかまえ、ニヤニヤ・・・やっぱり何かあるのか?と2人は思った。
「その太刀は特別のものなのか?」
と、キマリが訊ねると「祈り子様」は頷いた。
人の手では作れないものだ。魔物からでもせしめたか?」
「・・・・・・・」
「こいつを持っていれば、まず大概の魔物は寄り付かないだろう。」
それだ!!と2人は思った。しかし、待てよ・・・

「魔物を寄り付かせないための力は、防具にしか付け加えられないと思ったのだが?」
「そのとおり。だから、こいつは珍しい。おまえ、これを持って歩いたのか?」
「今日半日。」
ブハハハハ・・・・祈り子様 大喜び。なんで?

「おまえ、今まで疑問に思ったことはなかったのか?魔物を寄り付かせない防具とは、どんなしくみになっているのかと。」
「・・・なにか魔物にとって、相手の強さを感じさせたり恐怖をあたえる力があるものかと・・・」
「それは違うだろう。もし そうなら、今のおまえが正宗を持ち歩けばたいていの魔物はひっこみそうなものだろうが。」
なるほど。完全武装のオトコ達に襲い掛かってくる魔物が、ひ弱に見える少女の「チキンアーマー」ひとつで寄り付かない本当の理由はなんなのだろうか?「強さ」に対する恐怖以外の何かがあるということなのだろうか。

気がかりなのは、キマリの聞いた魔物の会話。
もしかして、魔物の目にだけは「見なかったことにしたいような」何かが見えるのか?だから、魔物は近寄ってこないのか?

とてつもなくイヤな予感がする。

「祈り子様」がホレと「陽炎」を返してよこす。
「ちょっと、構えてみろ。オレをきりたおす気で・・」

しばし躊躇したアーロンだが、やむなく「陽炎」を持ち直した。
腰を落とし、足場を確認し、左腕を着物から出して相手を見据え 太刀をかまえる。
キマリからは、アーロンの殺気が感じとれそうな 緊迫感あふれるシーンに

「ガハハハハ・・・・・!!」

「祈り子様」大爆笑!すぐ横で 両目ひんむいて、シッポを股の間にしまいこみ へたりこんでしまっている「祈り子様の犬」。

その反応はナンなのだ!?

笑うな!笑うシーンではない、絶対 ココは・・・!?

しかし、「祈り子様」笑いすぎて半分なみだ目。
なんでェ?なにが そんなに面白いのだ?今 ナニがおこっているというのだ?!

詰問するような鋭いアーロンの視線。しかしキマリはブンブンと頭を横に振るしかない。
「祈り子様」は満足するまで たっぷり笑いこけると
「いやァ いいものを見た。皆にも教えてやろう。では、さらば!」

「まてい!!」

聞いちゃいない。「犬」連れてサッサといずこかへご帰還あそばされてしまった。

    気まずい沈黙。

やがて、アーロンがポツリと一言。
「キマリ、何も見えなかったよな。」
コクコク。

かくして、「陽炎」はアーロンの手で封印された。武器アビリティ・エンカウント0の謎と共に。

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