ネバーエンディング・・・・

「捨てて来い!!」
「ヤダ。」
「だれが世話するんだ。どっかに捨てて来い。」
「世話ならアタシがする。この子ケガしてるんだよ。かわいそうじゃない〜」
「お前の、世話する〜は、あてにならんのだ!!」

 なんだか、いつもに増してにぎやかな飛空艇ブリッジ。食堂でもらったおやつ用の菓子パンをかじりながらティーダはのんびりとドアを開けた。
「とにかく、ケガが治るまででいいから、おいてやってよぉ。」
今しがた魔物狩りから帰ってきたリュックが、シドさん相手に盛大にわめきちらしている。
横手で少々困ったような表情のユウナとキマリがモジモジとしている。

(ははァ〜ん。何か小動物を拾ってきたってパターンだな、これは・・・)

「ケガが治ったら放してやるからぁ〜」
「む〜むむ・・・。」

(この分だと、シドさんが丸め込まれるのは時間の問題だな。)

と、ヒョイとリュックのかかえている「それ」を見たとたん、ティーダはゲッとうめいてその場に硬直した。

丸まっちい緑の身体。つぶらな黄色いお目め。つい、つかんで ひっぱってみたくなるような愛嬌のあるシッポ・・・。ケガ(?)したお手てに白い包帯を巻かれた「それ」は、間違いなくトンベリだった。



「ガハハハハ・・・・・」
自販機コーナー横のテーブルで大爆笑するワッカ。
「笑い事じゃねっス。いったい、どういうことっスか、キマリ?!」
とっさに手近なところに立っていたキマリの腕をひっつかんで、ブリッジを飛び出してきたティーダは、わけがわからないといった表情。
「さっき、ナギ平原の谷底の洞窟で、リュックが見つけた。」
「なんで、あんなもん つれて来るんだよ!」
「ケガをして、うずくまっていた。ユウナがためしに人間用の薬をつけて包帯を巻いてやったら、くっついてきて離れない。」
「じょ〜だん!トンベリだよ、ト・ン・ベ・リ。あんなヤバイ魔物ど〜すんのさぁ!!」
平然としたキマリにくってかかるティーダ。それを
「まぁまぁ・・・」
と、ワッカが止めた。

「あんな、ティーダ、一言に魔物といっても、いろんなヤツがいるんだよ。」
「へっ?」
「そうね。全部が全部危ないとは限らないわ。穏やかなものもいれば、臆病なものもいる。私たちが相手にしているのは、むやみに好戦的で人に襲い掛かってくる危険な性質のものばかりで、それは魔物全体からみたら氷山の一角でしかないわけよ。」
自販機のハーブティを片手にルールーも落ち着いたもの。

「魔物って・・・そういうもんなの?」
「おう。だいたい、ビサイド島にも犬だの猫だのいっぱい動物がいるが、あれだって、怖い伝染病に罹れば人に襲い掛かることだってあるわけだろ?魔物も十派一からげにヤバイ、危ないというわけじゃないってことだ。大多数は人目につかないところで、ひっそりと暮らしている。そういうものらしいぞ。」
「そ・・・だったんだ。」
ちょっぴり目からウロコのティーダ君だった。

「トンベリなんてのは、オレらガードの立場からすると、確かにヤバイ相手として有名だが、あれでかなりレアな魔物でな、生態とか詳しいことはほとんどわかっていないわけよ。オレらにとってレアってことは、本来はおとなしい、どこかに隠れ住んでいるだけの魔物なのかもしれないな。」
「ふうん・・・。」


 どうやら、ティーダの予想通りシドさんは、まるめこまれて、その夜リュックは堂々とトンベリを連れ歩いた。おとなしい、おだやかな魔物かもしれぬというワッカの言葉は、当たっていたらしくて、わざわざこちらから喧嘩を売らない限り(売るヤツは、いねェ)そこいらのペット動物となんら変わりはないようだった。
こうなると、トンベリの持つ愛くるしい姿形は強みである。その子は、あっという間に艇内の人気者になっていた。



「おい、また来ていたぞ。お前が責任を持って世話するんじゃなかったのか?」
なんかもう半分あきらめたような口調で、アーロンが緑色の丸まりをリュックに手渡す。
「えへへへへ・・・・。」

早朝、親指と人差し指でトンベリの首の後ろを器用につかんだアーロンが、緑色の魔物をタランとぶらさげて歩く姿は、ここ数日のお約束になっていた。
「だって、いつの間にかでかけちゃうんだもん〜。」
リュックに抱かれてトンベリはしあわせそうだ。
「やっぱ、トンちゃんも自分の好きな場所で眠りたいんだと思うなぁ。」
「あぁ、それは認めてやるから、とりあえず俺のベッド以外の場所を選ぶように、しつけをしておけ。いいな。」
「へへへ・・・・。」

(昨日も、一昨日も似たようなこと言ってたよな。)
と、朝食をかきこみながらティーダは思う。今や飛空艇のアイドル、トンベリのトンちゃん(安易なネーミングだ)は、昼中全艇に愛嬌をふりまくったあげく、なぜか深夜になるとリュックの部屋を抜け出してアーロンのベッドに無断進入する。

(なんとなく、こうなるんじゃないかという気は、していたな・・・。)
笑いをかみ殺すキマリ。

「毎朝、目がさめるたびに、こいつが転がっているのはたまらん。」
「なんで?かわいいじゃん。」
「俺の精神衛生上の問題だ。」
「はいはい。う〜ん、トンちゃん、だいぶ おケガ治りまちたねぇ〜」

(ダメだな。これは・・・)
のんきなことを言っていられたのは、ここまでだったかもしれない。



翌日・・・アーロンの手には2匹のトンベリが、ぶら下がっていた。

「リュック・・・。」
「???!!!」
差し出されたトンちゃん2匹に、リュックは目を白黒。
「おっちゃん、何?」
「知らん。目がさめたら、今日は2匹転がっていた。」
おっちゃんの子供?
俺は、そこまで器用ではない!!
トンベリとは顕微鏡レベルの生き物によくあるような、分裂方法で増殖するものであるのかどうなのか・・・この日の飛空艇はその話題でもちきりだった。



その翌日・・・アーロンは、4匹のトンベリをかかえて食堂に行った。
「悪いことは言わないから、ナギ平原に行って帰してこい。」
「え〜、でもぉ〜。」
「責任がとれなくなってからでは遅いんだぞ。」
「・・・・・・・。」
なんとなく艇内に不安なムードがただよい始めていた。



その翌日・・・アーロンは手ぶらで朝の食堂に向かっていた。
普段そこまで必要かと思うほど、ブレストアーマー、ネックガードと、きっちり防具を身につける男が、よほど急いだのか今日は赤い上着を羽織ってベルトで止めただけ。

リュックの姿を見つけるとツカツカと近寄り、有無を言わさず上着の首ねっこをつかんでひっぱり上げる。
「俺の部屋へ来い。」
「え?なに?もしかして、おっちゃんからの、おさそい?」
「いいから、サッサと来い!」
呼ばれてもいない居合わせたメンバーが朝食そっちのけでガタバタと席を立った。

 
トンベリのかわりにリュックを半ばぶら下げたアーロンは、ドアが開くのももどかしげに自室に入ると、ポイとリュックの身体をベッドに押しやった。
「ちょっとぉ、レディの扱いは、もっと丁寧に・・・」
文句をつけようとしたリュックの口が開いたまま止まる。そこには、ベッド一面に8匹のトンベリがコロコロコロ・・・・

「うっわぁ〜。やっぱ8匹っス!」
「明日になったら16匹に増えるのかしら。」
「倍・倍・倍かよ。」
「この部屋からトンベリがあふれる日は、遠くないわね。」
「笑い事ではない。」
絶対、楽しんでいるメンバーをさえぎるように、キマリがきっぱりと言った。

「あと、1週間もすれば、1000匹、2週間後には10万匹を超える。ごく近い将来、飛空艇はトンベリで埋め尽くされる。」
容易に想像できる、おっそろしい光景。
リュックの顔からサァッと血の気が引いていく。

「あ・・・。ナギ平原に帰しに行ってくる。」
オドオドと上目使いに言うと、アーロンは、やっと1つ大きくうなずいてみせた。


「でもさ、あんなものすごい勢いで増えて、スピラはよくトンベリだらけにならないものっスね。」
抱いて、背負って、8匹のトンベリを拾った場所へリュックが帰しに行った後、ティーダは興味深げに問いかけた。
「たぶんトンベリは食物連鎖の下の方に位置する魔物だったのではないかと、キマリは思う。」
「なに、それ?」
「いっぱい殖えるネズミをネコが食べる。そのネコを、さらに強い生き物が食べる。こうして自然界はなりたっていく。連鎖の下のほうの生き物は数が多く、上にいくほど個体数は減っていく。トンベリは倍倍・・とどんどん増えても、上の捕食者にそのほとんどが食べられてしまうのでスピラがトンベリで埋まる心配はない。」
「ふうん。」
あんなヤバそうな魔物が、被捕食者グループとは。自然界ってあなどりがたいなぁとティーダは思った。



その夜、またまたブリッジからにぎやかな言い争いの声がして、ティーダはひょいとドアを開けた。
「トンベリ帰してきたから、いいでしょ?子猫ちゃん。ちゃぁんと世話するからぁ。」
「ダメだ。捨てて来い!!」

(なんだよ、リュック、今度はネコ拾ったのか・・・)

どうせシドさん、言い負かされるんだから・・・と、リュックの腕に抱かれてミュウミュウと甘える子猫を見ていたティーダは、フと不安を覚えた。
(気のせいか、あのネコ、妙に長いヒゲ2本はえてないか・・・?)
行き先、ナギ平原だったよな。
待て、ちょっと待てって!!
アレは連鎖のどのへんのヤツなんだ?!

     おまえら、少しは学習しろって・・・

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