空を飛ぶ船が歌を歌うんか?!


「で、結局それ、何に使うもんなんだ?」
というワッカの問いに、顔を見合わせていた技術者たちは、そろって頭を横に振った。

 いにしえの超科学が生んだ機械の傑作。せっかく使わせてもらっている飛空艇なのであるが・・・実はまだ判らないことの方が多いのが現状。今日も技術者の一人が見つけだした「それ」は、使用目的がよくわからない機能だった。

 山のように並べられた題名と思しき物の一覧表。その1つ1つに決定ボタンを入力すると、様々な音楽が流れ出す装置・・・。

「きっと、この飛空艇が作られた時代に存在していた音楽が記録してあるソフトなんじゃないかしら?」
「っつうと何か?こいつは、この艇が造られた時代・・・ひょっとすると1000年も前にスピラで流れていた音楽っていうことか?」
「1000年前の歌なの?」
「歌声は入っていないみたいなんだけれどねぇ。」
突然再生された1000年前の音楽。役に立つものかどうかは、まるっきりわからないが、なんかロマンがあるんじゃないか?

「わからんことを、わからんままにしておいたんじゃあ、進歩がねぇ。とりあえず、どっからでもいいから、いろいろ調べてみろや!!」
というシドさんの荒っぽいが前向きの方針に賛同する技術者たちが、妙に楽しげに装置の調査を進める。たまたま本日のお留守番組にあたったワッカ、ルールー、ユウナも興味津々。

 誰の作業が功を奏したのか、1台のTVモニターに光が走り、映像が流れ出した。題名を選びなおすと映像も別の物に切り替わる。
「映像付きってか?」
「あのテロップで流れている文字って、どこの言葉かしら?」
「スピラで使われている文字じゃなさそうだなぁ。」
「シドさん、アルベド語には、ああいう文字があるのですか?」
「う〜ん、1000年も前には、あったのかもしれんが、わからんな・・・。」
すると、一人の技師が声をあげた。
「どうやら、ザナルカンドで使用されていた古代文字みたいですよ。同時通訳で各地の用語に切り替えられるみたいです。」
「マジかよ?!」
「もっとも、それ自体が、1000年前かどうかわかりませんが、とにかく昔の言葉になってしまいますがね。メインモニターの文字をアルベド語に、ユウナさんの近くにあるモニターにベベル地方の文字というので出してみます。」
「おう!たのむぜ。」
3人が覗き込む映像のテロップが別の表記に切り替わる。
「エボン文字に似ているわ。なんとか読めるわね。」
「いにしえのヒット曲集?1000年前のさらに前の曲なのかなぁ?」
「青春歌謡?その当時の若者たちが好んだ曲かしら・・・」
「しかしよ、この、アニソン&ゲームミュージック集って、なんだ?」
「さァ・・・・・?」

 皆であ〜でもない、こ〜でもないと、ペチャクチャやっているところへ
「たっだいまァ〜」
と明るい声がして、魔物捕獲組4人が帰って来た。
「あれぇ、何やってんのぉ〜?」
おもちゃには目ざといリュック。アーロンとキマリがシドさんに一応の報告をしているのなんざ完全無視でモニターのところへ駆けていった。それを見たティーダから口笛が一発。
「うっわァ〜ぉ、この艇、カラオケ付きかよ〜!!」
カ・ラ・オ・ケぇ?」
なんだかスピラ語には、ない単語。
乞われてティーダは、うきうきと解説を始めている。

「あいつのザナルカンドで娯楽として人気のあった設備の1つだ。なんでも、あの音楽にあわせて歌を歌う。それが面白いらしい。」
一応10年間暮らして知識を持っているアーロンがキマリにだけ聞こえるようにつぶやく。
「アーロンも歌ったのか?」
「ろくに歌を知らんので、参加しなかった。歌詞はあのテロップで表記されている文字であるらしい。」
「なるほど。」

「だからぁ、まず歌を決めるっス。・・・といっても、このへんは聞いたことない曲名ばかりだなぁ、え〜っと・・・なになに、地方の民謡?」
たまたまティーダが引っ張り出した音楽がブリッジに流れたとたん、キマリがピクリと反応を示した。
「それ、キマリ知っている。神聖な行事の際歌われる、ロンゾの大切な歌。」
「本当か?」
「それって、1つの歌が1000年も伝えられているってことよね。ステキ!」
「1000年かぁ、祈りの歌なみにすっごい歌をキマリ達は持ってるんだぁ。」
キマリ、なんだか自分自身をほめられる以上にうれしくなって、気分ハイ。

ヒョイと技師を振り返ったティーダが問いかける。
「ねぇ、これって、ロンゾ族の言語にも替えられるっスか?」
「できると思いますよ。え・・・と・・。」
ニヤリと笑うティーダ君。キマリの腕をひっぱってブリッジの中央に立たせると・・・
「画面に歌詞がでてくるから、キマリ歌ってみせるっス。」
「え?」
「口で説明するより、やってみせるのが手っ取り早いっス。」
「OK。映像切り替えまぁす。」
いくつかパネルを操作する技師。一旦画面が消え、再び最初の映像にもどったモニターに、ロンゾの言語で書かれたと思われる歌の題名がでかでかと映し出されて、イントロが始まる。
ブリッジに居合わせた一堂の期待に満ちたまなざし。
ホレ、とつつかれて、キマリは大きく息をすった。

「♪・・・・(たいへん残念ですが、ロンゾ言語の表記が不可能です)・・・・♪」

誰一人、歌詞の意味を判読できる者は居なかった。しかし、朗々と歌われるキマリの声に全員が声を無くした。曲が終わり・・・たっぷり10秒以上の静寂の後、絶賛の声と拍手のうずがブリッジにこだました。何、歌っているか意味はわからなくても、上手いかどうかは誰にでもわかる
キマリ大テレ。もしも、毛皮の先っちょまで血管が通っているものなら、きっとこのとき、でっかい青獣人は赤獣人に変身(?)していたことだろう。

「いいなぁ、この装置。おもしれぇことができるじゃん!」
シンの脅威のために、ブリッツボール以外ろくすっぽ娯楽というものが存在しない世界に暮らしてきた一同はこの新しい設備に夢中になった。
いずれ文化的に研究をしたら、きっとすばらしい成果がでることであろう。
いや、それよりもだ、こんなにいっぱい曲があるのだから、もしかしたら自分が知っている歌がまじっている可能性がないだろうか?知っている曲があったなら、自分もカラオケを楽しむことができる!!

「ルー!ビサイドにも古くから伝わっている歌とかあるだろう?なにか、思いきり昔の歌を知らないか?」
「・・・・・・?」
突然たずねられても、1000年昔から伝えられている曲となると、おいそれと思いつくものではない。
でも、自分が知らないだけで、実は1000年前から伝わっているメロディーをどこかで使用している可能性はあるだろう。
皆は手近なモニターをのぞきこみ始めた。

やはり利用体験がある者が強い。
ほどなくティーダが声をあげた。
「あ、これ、・・・祈りの歌の元歌だ」
「は?」

祈りの歌には、いろいろの歴史があるらしい。現在のスピラでは、意味が定かでない歌詞がつけられた状態で、主に各地の寺院でよく聞かれるメロディーになっている。が、実は、以前この曲は反ベベル勢力に好まれた歌であったという記録も残っている。

「オレさぁ、不思議だったっス。寺院に行くと、必ずこの曲が流れているんだけれど、ぜんぜん知らない歌詞になっちゃってるんだよなぁ。でも、メロディーはおんなじだから、これなら皆で歌えるっス」
祈りの歌・・・これを知らないスピラの人間はいない
居合わせた全員がその気になったのを見たティーダは、さっきキマリが美声を披露した位置につこうとした。
それを、あわてて止めようとしたヤツがいる。
「待て。それだけは止めておけ。」
「なんでだよ、アーロン?」
「いや、祈りの歌だけは・・・まずい。」
「???」

なにがまずいのだろう。ちょっと考えたティーダは、1つのことに思い当たった。
現在、祈りの歌は寺院を代表する音楽になってしまっている。いろんな事情から、聖ベベル宮と好ましい関係にない彼らが「祈りの歌」を歌うことは感情的に問題があるのかもしれない。
「だいじょうぶだって。硬いこと言わないスよ。どんな使われ方をしても、祈りの歌はいい音楽っス!なんなら後でオレが元の歌詞をみんなに教えるから・・・さぁ、いってみよ〜っ。」
「いや、そうじゃなく・・・。」


アーロンの静止にかかわらず音楽はスタートした。

・ ・・・・・そう、だいたいオチがわかることだろう。

人前で歌を歌った場合、その曲がよく知られているものほど、ごまかはきかないのである
歌詞の違い云々はともかく、音程のズレはだれにでもわかってしまうンである。

    合掌

後日、シンに対抗するため「空飛ぶ船が祈りの歌を歌う」時に使用されたのはこの「カラオケ」のメロディーであったらしいが、その中にティーダ君の歌声が録音されていた様子は・・・ないみたいである。

                                              もどります



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