無知との遭遇?!



とある森で、野営を余儀なくされたユウナたち一行は、たまたま通りかかった近隣に住むという男から、少し奥まった場所に泉が湧いているという話を聞きだした。なんでも、温泉と呼ぶほどではないが、水温がやや暖かく 旅の汗を流すのであれば、水浴よりよほど快適であろうとのことだった。
じゃんけんの結果、入浴一番手は女性群3人。お約束どおり
「オレ 入浴中の警護のために同行するっス!」
と、やたらほがらかに名乗りを上げた青年は、レディーズからのトリプル冷ややかな視線にたじろいだあげく、ワッカの首ねっこしめあげ「こぉのバカたれが〜」攻撃にかぶとを脱いだ。
ルールーはともかく、他の2人も もはや「ブリザガ」の入手は不要だな・・・と思うティーダ。
警護なんて不要だ、絶対に不要だと思う年長3人組。
男は全員お留守番とあいなった。

思いのほか快適な泉であったらしく、湯浴みから帰った女性達はしごくご満悦である。入れ替わりに男どもがでかけようとすると、ルールーが肩をすくめた。
「4人いっぺんにはいるのは、ムリかもね。」
どうやら泉は小さなものらしい。
「おっさん、キマリ先に入って来なよ。俺達少し時間をずらしていくからサ。」
湯上りのホンワカ美女3人を観賞するほうが 入浴よりも順位が上だと言わんばかりのティーダの進言に苦笑しながらアーロンは立ち上がった。

いかなる時も手放せない もはや所持することが習慣になってしまっている太刀のほかは、使いふるしたタオルが1つ。そんなアーロンにとって、キマリの持ち物は異様に思えた。槍・・・これは まあ、自分と同じで戦士のこだわりというものだろう。が、なんでこいつは こんなでっかいタオルを2つも持っているのだ?ついでに、あの妙に大型のブラシ状の物体はなんだろう?
泉を見つけ、湯浴みのために衣服を脱ぎ始めた時、とうとうアーロンは好奇心に負けた。
「キマリ、そのタオル2つは なにか意味のあることか?」

「・・・?・・・」
ああ、きましたねとキマリは思った。
彼には最近アーロンの本質が見え始めていた。
ルカで再会した時、彼はスピラで知らぬ者とてない伝説のガードであった。戦闘の場における卓越した力と技能に舌を巻いたキマリは、しばし本気でアーロンを近寄りがたい存在と思っていた。
しかし・・・旅が進み 生活をともにする時間が増えるにしたがって、そんな人づてに聞かされた戦士像とは別に 本来の彼の姿をみとめることができるようになってきたのである。

まず、彼はベベル宮出身の人間には珍しいほど、亜人種・異種族への偏見が少なかった。アルベド人に対してすら、それで良く僧兵をつとめられたものだと思うほど嫌悪感を持たない男だった。そのせいも関係するのか、小動物にはやたら懐かれる。ついでに、クラスコなみにチョコボうけがいい。
(いや、それがどうしたって言われても困るのだが)
そして、かなりの好奇心の持ち主である。リュックが持ち込む機械文化に対して真っ先に反応を示すのはパーティ中 たいていアーロンであるとキマリは気がついている。とざされた世界、限られた知識しか与えられない僧兵生活を抜けた彼が、新しい情報を貪欲に吸収したがっている様子は、キマリにとって、なぜか微笑ましく 好ましいことに思えていた。

「キマリは身体が大きい。お前達人間と違って全身を体毛がおおっている。とても小さなタオルでは、用が足せない。」
言われてみれば そういうものか・・・とアーロンが、小さくうなずく。素直な男である。
ありきたりな答えで終わらせてしまうのは ちょっともったいない気がした。そこで、キマリは もう少しだけ付け加えた。
「と いうのは、たてまえで、本当は古い古い先祖の血が、ぬれたままでいることを極力嫌っているからかもしれぬ。」
「・・・・・・・・・・」
「ロンゾ族の伝承では、昔 霊峰ガガゼトには、巨大な獣の一族がすんでいて 長い年月の間に2本の足で立ち上がり やがてロンゾ族となったということになっている。だから、今もロンゾの身体には かつての獣の血のなごりが残っているというわけだ。」

2人は水温を確かめた後、泉に身を浸した。ぬるめとはいえ、ゆったりとつかるにはむしろ適度な水温だった。やがて、ザバリと泉を出たキマリは大型のブラシ状のものを手にして、人間が髪を梳かすのと同じ要領で全身の体毛を梳かし始めた。
(そのための ブラシか)という表情でアーロンが眺めている。
キマリは いかにも心地よげにブラシを使いながら いつになく多弁に語った。
「やはり毛玉ができるのはロンゾの身だしなみエチケットに反するのでな。ブラッシングはかかせない。特に今は毛変わりのシーズンなので抜け毛が多い。いつもよりは念入りに毛づくろいをする。」
アーロンは、なんか耳慣れない言葉を聴いたような気がした。単語そのものはキッチリ認識できるものの、少なくとも入浴中に語り合うセリフではないような・・・?
それでも、キマリがあんまり幸せそうな様子で「毛づくろい」を続けるのを見て、つい その気になった。
「キマリ そのブラシを貸せ。そして・・・」
彼はてごろな岩を指し示した。
「そこにすわれ。」
「・・・?・・・」
アーロンは、ブラシを受け取るとキマリの背後にまわり、背の部分の「毛づくろい」を始めた。
「・・・!・・・」
「さすがに背中までは手が届かないだろう?」
恐縮したキマリは、身が縮まる思いであった。

かつて仲間から「小さい」とあざけられたキマリだが、人間から見れば十二分にでかい体躯である。ひろびろとした背中を楽しげにブラッシングしていたアーロンは、ふとブラシに、ひっかかりを感じた。普段フワフワとした巨鳥の羽で覆われた ちょうど首筋の下あたり。なにげに「毛づくろい」がやりにくい。キマリが「あ」と声を上げた。
「アーロン、そのあたりは毛皮がゆるい。毛づくろいは、やりにくい。」
「は?」
顔だけ振り返ったキマリが、首筋を指差して言う。
「祖先の血だ。ロンゾの先祖は子供を運ぶ時 口で首筋をくわえて移動したと言われている。今もロンゾの首の後ろには、そのころの名残があって、毛皮がゆるい。痛くはないのでひっぱってみるといい。」
「・・・・・・・」
好奇心が勝った。ためしに教えられた部分をつまんでみると、お〜、確かに伸びる。ちょうど犬や猫の首の感触と同じである。ロンゾ族の先祖伝説侮りがたし。
とたんにアーロンの脳裏にひらめいたイメージがある。子供のころのキマリが、両手両足をたらんと下げて 首根っこをわしづかみにされて母親にぶら下げられている映像・・・。
かわゆいかもしれない・・・アーロンは思わず噴出しそうになって必死にこらえた。

「毛変わりのシーズン」があって、首の後ろに「皮膚のたるみ」があるロンゾ族。これは、ひょっとしてもしかすると・・・ついついイタズラ心がわきあがる。アーロンはキマリの正面に回りこむとしゃがみこんで
「キマリ、ちょっと足の裏 みせてみろ。」
ヒョイとキマリの片足を持ち上げてみた。
「???!!!」

「・・・・・。すまん。つい確かめてみたくなってな・・・」
「・・・?・・・」
アーロンは苦笑いしながら、キマリの足をそっとおろした。期待したものはなかったという表情。
「肉球の痕跡でも残っていないかと思ってな・・・」
ああ、この人は想像以上に天然かもしれぬとキマリは思った。でも、不思議と不快ではなかった。
「霊峰ガガゼトは雪と氷の世界。その地に住まう者達にとって大切なのは寒さとの戦い。足の裏は厚い毛皮で守るほうが合理的だ。」
アーロンは納得したようだったが、いくぶん残念そうな気配をみせている。今度はキマリのほうが気になった。
「肉球があったら、どうしようとおもったのだ?」
「うむ・・・実は昔、聞いたことがあるのだ。ネコの肉球をさわるのは、ネコにとってセクハラである・・・と。」
「ネコのセクハラ?!・・・・・」
「本当かどうか確かめてみたいと思ったのだが、ネコにたずねたとて返事をもらえるわけもない。それで、もしもキマリに肉球があるのなら、さわられた時なにか感じるものかどうか聞けるかと思ったのだが・・・」

よりによって この人にそんなことを吹き込んだのは、誰なんだ?ティーダか?リュックか?困ったものだ。
(私、もう一人そんなこと言いそうなヤツ知ってるけどな)
しかし、アーロン、一度ふところに容れたものに対して寛容なのはいいけれど、さすがにそこまで警戒心を解くのは問題だろう・・・とキマリは思った。

「ネコの意見は、わからないが、肉球に刺激が加わるたびに性的な興奮をおぼえたら、ネコはおちおちジャリ道を歩くこともできないのではなかろうか?キマリはその話、がせネタのような気がする。」
「なるほど。」
合理的?な解説ありがとう・・・アーロンの表情がそう語っていた。腹の底から笑いがこみ上げてきた。

「仮にキマリに肉球があって、アーロンがそれにさわったとして、もしもキマリが性的興奮をおぼえたとしたら、アーロンはどうするつもりだったのだ?」
「は?」
キマリはずいっと立ち上がると、両腕をかまえてポーズをとった。
    
フロント・ダブル・バイセップス

くるりと後ろを向くと もう1つポーズ。
    
リア・ダブル・バイセップス


注1:ボディビルコンテストとかで、みることがある 筋肉モリモリのカッチョイイきめポーズのことであるよ。だから〜、スピラにそうゆ〜のがあるのォっつう つっこみはナシだってば。ほら、某バルXロ君あたり やっていそうじゃない?
注2:と いうか、キマリ君 そ〜いうことは、ちゃんとパンツはいている時にやったほうがイイと思うんだけれどねぇ・・・

「このとおり 腕力と体力なら、キマリはアーロンにだって負けない。身体だって大きい。そんなキマリがその気になって・・・」
キマリは振り返ると、両手でアーロンの右手を取ると 高らかに言い放った。
「兄貴と呼んでいいですか?!と 言ったら アーロン、いったいどうするつもりだった?」
      
シィィ〜〜〜ン

たっぷり5秒以上たった後、アーロンがブッと吹き出したのをきっかけに 2人の男は大爆笑をはじめてしまった。


一方 湯上り美女をたっぷり堪能したスポーツマン2人組みは、泉に向かってのんびり歩いていた。
突然前方から笑い声。
「あれって もしかして オッサン?」
2人は、いそいで木々の間を駆け抜けた。小さな空き地に暖かそうな湯気のたつ泉。その空き地の一角で、でっかい裸の男2人が爆笑している。
ティーダとワッカの顔からサッと血の気が引いた。真っ先に脳裏に浮かんだのは今日の夕食!
「シチューに ずいぶんたくさん キノコ入っていたっスね・・・」
「今日の夕食当番ってだれだ?」
「リュックっス。」
不安。

機械に関する知識なら、リュックのものはプロなみだ。しかし、食用キノコの識別に関しては・・・どの程度のものか知れたものではない。
ベニテングタケ、イッポンシメジ、ツキヨタケ、ドクツルタケ・・・・・それっぽいヤバそうな名前が2人の頭をかけめぐった。

「ワ、ワッカ。気のせいかもしれないけれど、なんか寒気がしてきたっス。」
「おれ、ちょっと腹 痛いような気がする。」
2人は顔を見合わせた。
「お前、エスナ使えるか?」
「まだ、おぼえてネっス。ワッカ、万能薬持ってないスか?」
「フロ入るのに、万能薬持ってくるヤツ どこにいンだよ。」
「・・・・・・・・」
2人ののどがゴクリと鳴る。
「ユ、ユウナぁ〜!」
カン違い男2人は、脱兎のごとく 駆け出していた。

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