ウォーター ボーイズ & ガールズ


 ベベル寺院を中心とするエボン教による機械文明の排斥と、シンの災害のために人口の爆発的増加が抑えられているスピラの世界は、自然に関してだけは、やたらと美しい。川、湖、海・・・どこに行っても澄み切った水は人の心を癒してくれる。・・・ふつうは・・・

「なぁ、おっさん。キッパ知ってるだろ?」
「・・・ん・・・」
「どう思う?」
「どうって?」
「好き?」
「好きだぞ。あのゴールキーパーをやっている男だろう?」
「そうそう。」
「最近の成長は目を見張る物がある。あれなら、お前たちも安心して後ろをまかせて攻撃に全力を出せるだろう。あれは、いい選手になる。」
「・・・そうなんだよなぁ・・・こうやって聞くと、男はたいていそう言うっス。」
「・・・?・・・」

鳥の声。木々のざわめき。やわらかな木漏れ日。澄み切った泉のほとり。
アーロンは隣に座った青年を不思議そうに見た。
「あのさァ,この前おっさんがワッカに言ってただろ?ビサイド・オーラカの最大の弱点は選手層の薄さだって。あれだけ激しいスポーツを続けていればケガもする。そんな時に入れ替えの選手もなく、プレイを続けなければならない現状では、せっかくの選手をつぶしてしまう。今後のことを考えるなら、もっと視野を広げて、野にあるブリッツボーラーを発掘しスカウトすべきだ〜って。」
「・・・・・・。」
「めっずらしく、理路整然としたこと言うからさァ・・・」
喧嘩売ってるのか、お前
「オレ達ためしに、あちこちへスカウトに行ってみたわけっス。したら、ブリッツのことは、ちょっと置いといてェ、妙なことに気がついたっス。」
「?」
「キッパ、やたら女の子にもてる!!」
「・・・・・・・。」

「オレもキッパは好きだよ。さっぱりした気性といい、穏やかでいて1本しんの通ったところといい・・・そもそもビサイド・オーラカのメンバーってのは、いいヤツがそろってるっス。なのに、なぜかキッパだけが女の子にもてるっス!!
(なんじゃ、それは・・・)
「その、もて方が、おっさんが言ってるような、いい選手だから好きなんつうのじゃなくて、キャァ〜、キッパかわゆい〜。お姉さんが遊んであげるぅ〜と、こうヨ。」
「・・・・・・・・。」
「なにがどうなってるか、さっぱりわかんネっス。オレだけじゃなくてボッツもジャッシュも、みぃんな首ひねってるっス。一番オタついてるのはキッパ本人っス。この間ルカ・ゴワーズ戦やった後なんか、キッパ、ドーラムとバルゲルダにとっ捕まりそうになって必死で逃げてきたっス!!」
「結構ハードな青春を送っているんだなぁ、彼らも・・・。」
「なぁ、おっさん、なんでだと思う?」
「俺にふるな。そういうことは、お前の方が詳しいだろうが?」
「オレのファンは、もっと ず〜っと普通だったっス。」
「言っとくが、俺がそのテの話題からはずれた環境で生活してきたということは、お前が一番しっているのじゃないのか?」
「・・・あぁ、そっスねェ。」
なんか自分で言った言葉で傷ついているアーロンさん 35歳。独身。子育て経験有り。


「うぅ〜、ヒマっス。」
話題が途切れてゴロリと仰向けにひっくり返るティーダ。
「オレ知らなかったっス。召喚士って結構体力あるもんだったんスね。」
「まァな。」
「まァな・・・じゃないっしょ?!これ、おっさんにも責任あることなんだから。」
「責・・任は・・・ないと思う。」
ある!おっさんとキマリとルールー。主な原因はこの3人。」
「・・・・・・・・。」
それは違うと言いたそうな目で水面を見やるアーロン。水中では現在キマリが悪戦苦闘中。



 数日前のことだった。ナギ平原のベルゲミーネのもとを訪れたユウナは、彼女の召喚するバハムート(めちゃ強)に勝利し、賞賛の言葉とともに「花のかんむり」をもらった。せっかくもらったアイテムの使用方法がわからず困っている様子を見たベルゲミーネは、各地の寺院に隠された封印された宝箱を探し出した後、バージ寺院を訪れるようにという1つめのヒントをくれた。
 よろこんだユウナは唯一の取り忘れともいうべきエボン=ドームの宝箱を入手するために出かけていき、その足で飛空艇からバージ寺院に降り立った。

 が・・・

「奥まった部屋に、祈り子の間らしいものがあるっス!」
水面から顔を出した人間河童3人組の報告を聞いたとたん、ユウナは硬直した。
「それ、どのあたりにあるの?」
「えっとぉ、そこから飛び込んで7〜8メートル潜ると、石柱で囲まれた門みたいなのがあるの。そこにドアがあるから入ると、あちこち崩れて細くなっちゃってるけれど、通路がうねうね〜って伸びてるからね。道なりに泳いでいくと控えの間にでるよ。大丈夫、その先には空気あるから。」

いや、そこまでは水の中なのよね・・・まず、あっさりと7〜8メートル潜るなんていわないでくれる?

「前に来た時は、途中までしか入れなかったけど、こういう仕掛けになってたっスかぁ。さ、ユウナ、祈り子様とお話しに行くっス。」
「あぁぁ〜あのォ、ちょっと待って。」
「ん?」
「それ、行かなくちゃダメかな。」
「なァに言ってるっスか。召喚士が行かなくちゃ、オレ達だけ行ったって何もできないっスよ。」
「・・・・・・・。」

助けて・・・とばかりに、キマリを見上げるユウナ。
シブい表情でティーダとリュックに耳打ちするワッカ。
「あンな、ユウナは泳げないんだ。」
「え〜〜っ!!」
「うそっ!!」
「まるっきりのカナヅチじゃないんだが、とても、あの祈り子の間まで泳いで行けるとは思えない。」
ど〜するっスかァ!!


その時、ズイと前に出たのはキマリ。
「ユウナ、少し待っていろ。キマリが先に行って調べてみる。」
「え?あの・・・」
水音も高くザンブと飛び込むキマリ。
それほど待つこともなく、水面にプカリと頭を出すと
「ユウナ、心配ない。キマリが連れて行く。飛び込んでキマリにつかまってくれ。ユウナは息を止めていればいい。」
巧みに立ち泳ぎしながら、自信満々な表情で話しかける。
「わぁ〜、キマリって泳ぎも上手いんじゃないのォ〜。いっつも水に入らないからカナヅチかと思ってたぁ。」
「キマリの1番の役割はユウナを守ること。ユウナを陸において水中にバトルしに行くわけにはいかない。」
「そっかぁ〜見直しちゃったァ!!」
リュックの賞賛に誇らしげなキマリ。エヘン。

(そっか・・・キマリ泳げるんだ・・・)

ホッとしたような、さびしいような複雑な気分のユウナがふと見ると、隣でルールーがトレードマークの黒いロングスカートをぬいでいる
「あの・・・ルールー・・・?」
「ん?さすがに、これ着ていたらじゃまでしょ?ぬらしたくないし。」
「え?」

パサリと落ちる上着一式。バンと張った魅惑の胸、きゅっと引き締まったウェスト、ふっくらと理想的ラインを描くヒップ・・・あぁもう、いつもこの姿でいてくれよと言いたくなるような美女はヒラリと水中にダイブした。

「うそ・・・。ルールーも平気なの・・・?」
背中を一筋の冷や汗が流れるのを感じるユウナ。

すぐ隣に立って、水面を見下ろしながらアーロンが訊ねる。
「おい、ティーダ。魔物は出そうか?」
「いないっス。前にでかいのが一匹いたけれど、オレらが倒しちゃったから。だからユウナ来ても大丈夫っス。」
「うむ。なら、これは置いていくか。」
持っていた太刀をザクリとその場に突き立て、あっさりと言うアーロン。
「では、行くぞユウナ。」
「は・・・え?・・あの・・」
ポンと軽く背を押されて、水に落っこちると同時にキマリのたくましい腕が、がっしりと彼女を抱え込む。安心感とともにまぶたを開いたユウナが見たものは・・・

「キャハハ・・・なに、おっちゃんの それェ?」
古式泳法っつうヤツですか?!」
「ふっる〜〜。教えたげよォかァ、最新アルベド泳法スペシャル。」
絶対、もう絶対今回は留守番だと思い込んでいたアーロンが平然と泳ぐ姿。

 寺院奥で待っていたアニマの祈り子・シーモア氏の母君が、たいへん友好的に力を託してくれたにもかかわらず、その日のユウナは、間違いなく普段の3倍は疲れを感じていた。

(注)ウソだと思う人はアニマとのイベントをもう一度思い出してみましょう。祈り子の間にはちゃんと7人全員そろっていますよ。あそこ、相当泳ぎが達者でないとたどりつけないよ〜。まぁ、話としては、おっさんカナヅチ設定の方が、いろいろ楽しいのは事実なんだけどねェ。あ、おっさんゴメン。陣風は勘弁・・・



「だから、おっさん達3人が泳いで見せたりするもんでェ、ユウナがどうしても泳げるようになるんだ〜って言い出して、毎日毎日練習につきあわされることになっちゃったんじゃないかぁ。」
ユウナの水着姿が見られるといって、真っ先にコーチを申し出たのは、お前だろうが。」
「そ・・だけどさァ、こんなに続くと思わなかったし、魔物狩り行ってくたびれて帰ってきて水泳っつうのは、やっぱキツイっス。」
「ザナルカンド・エイブズのエース様のセリフとも思えんがな。」
「ふつう、ザナルカンド・エイブズのエースはトカゲや狼と喧嘩なんかしねェっス。」

水しぶきが上がり、ユウナとキマリが顔を出す。なんか余裕のニコニコ顔でうれしそうにユウナが手を振る。
げんきんなもので、とたんに顔色輝かして、それに応えるティーダ君・・・青春。

「キマリも体力あるなぁ。教え方も結構上手いし・・・」
「うむ、お前より、ずっと上手いな。」
「ムッカ〜ッ!!だいたい、おっさん、いつ泳ぎ覚えたっスか?!オレおっさんにプールとか連れてってもらった記憶ゼロっすよ!!」
「あれは、もともと重装備の兵士が渡河用に使う技だ。僧兵はだれでも学ぶ。それに、俺は自分から泳げんと言った覚えはないはずだぞ。」
海水浴にも行ってない。」
「あれだけスフィアプールで泳ぎまくっておいて、まだ行きたかったのか?」
そじゃなくてェ!!

ダメだな。
うん。そういうこと、わかりそうな思考回路鈍そうだし・・・ティーダ君軽いタメ息。

「でもサ、おっさん泳いでも平気なのか?」
「あ?」
「死人ってのは幻光虫でできてるんだろ?あれ、水とスゲェ馴染みやすいっていうじゃん。おっさん溶けたりせんの?
「・・・水に入っただけで、どうこうなるほど親和性が高かったら、水中に住む魔物なぞ1匹もいなくなりそうなものだろう?」
「・・・あ〜。」
「雨が降るたびに、あちこちで魔物がデロデロ溶けるというわけでもなし・・・そもそも、海中を主たる住み場所にしていると思われるシンなぞ、1000年もたったら、とっくに消滅しているぞ。」
「お〜ぅ。」
「というわけだから、俺はシャワーも平気だし、風呂だって入れる。大概のことは死人だって気合入れればなんとかなるのだ。」
それは、なんか違うような気がする。)

具体例は納得できるが、実は根本の理論はさっぱりわからないスピラなのである。

「俺に言わせれば、幻光虫の俺より、夢の作り上げた世界から来たお前が、このスピラでどうやって実体を取っているのかの方がずっとわからん。」
「え?」
「お前も俺と同じで、とりあえず幻光虫か?
「え〜〜っ!?」
今回、おっさんボケ担当キャラかと思っていたら、意外なところで鋭いツッコミ。



ガサガサっと背後の茂みがかきわけられて、この上なく明るい声が響いた。
「いたァ!!おっちゃん、み〜っけ。」

     ギク!

とたんにこわばるアーロン。

「もう、捜したんだからァ。さ、ンじゃ、始めよっか。せっかく、きれいな泉もあることだしィ。」
イヤイヤをするように、そろり〜と立ち上がるアーロン。
「大丈夫だって。ちゃんと手取り足取り教えてあげるから。最新泳法を覚えてブリッツ大会に出よう〜って、ちょっと、なんで逃げるかなァ、おっちゃぁ〜ん?!」

(あ〜、逃げ足速いワ)
パタパタ駆けていくリュックを見ながら、ティーダは失笑した。
初期パラメータ:すばやさ5(遅!)から考えると、ずいぶん成長したもんだなァ。よほどフェンリル倒しまくったんだろ〜なぁ。(フォローになっているのか それ?)

おいおい。やしない子から、こんなこと言われるようになっちゃ、おしまいだぜアーロンさん。

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