マカラーニャ昆虫記


「なぁんか、このところ変なんっス。」
声を潜めてワッカに訴えかけるティーダ。
「変って、何が?」
「おっさんとキマリ。2人して、コソコソ ヒソヒソ。あれは絶対何かやってるっス。」
「・・・・・・」
「一昨日も妙な時間に2人で出かけて行ったし、昨日もそろそろ消灯時間だっつうのに、キマリ、おっさんの部屋へ入っていったし・・・。」
「あのな、それをいちいちチェック入れてるお前のほうが、よっぽどどっか変なんじゃないかとオレは思ったりしてるんだが・・・」
「それは、ちょっと置いといて・・・・」
「置いとくのかよ。」
「さっきも自販機の横で、なんか紙広げて怪しげな相談ぶってたっス。」
「本当に怪しげな相談だったら、自販機の横なんぞで大っぴらに紙広げてやるバカはいねェって。」
「だったら、よけい変っス!!怪しげでないンなら、なんで2人だけでコソコソやるっスか?!俺らに一言の話もないってのは、どういうわけェ?」
「・・・おまえさァ・・・」
ワッカは、あきれ半分で しれぇっと言った。
「要は、まぜてもらえないのが、面白くないっつうこと?」
「あ・・・わかるぅ?ワッカ・・・」
「わからいでか、このボケ!!」
ティーダの額にデコピン2連発が炸裂した。

とはいうものの、ワッカとしても十分興味はあったとみえて、
「事の真相を突き止めるっス。」
と、やたらやる気満々のティーダに、つきあうハメになった。


 飛空艇の乗員移動装置。いつの間にか操作方法を覚えてしまっているらしいアーロンとキマリが、筒状に丸めた紙を持って行き先指定をしている。ほどなく装置が軽い音とともに2人をいずこかへ移動させる。物陰から、それを見ていた探偵2人が容疑者の追跡にかかる。
「どこ行ったっスか?」
「わからん。が、同じ場所へ行けばいいのだから、このボタンで移動を実効すればいい。」
「スゲェ。ワッカ!!もう、すっかり機械文明を自分の物にしてるっス。」
お前が不勉強なだけだろうが!!


 2人が降り立ったのは・・・マカラーニャの森。
「ここになんの用があるっスかネェ?」
まずは、どっちに行ったらよいか、さっそく困る迷探偵。
「あ、もしかして。」
「ん?」
「聖なる泉!」
「・・・??・・・」
「オレとユウナの純愛を見て、感動したおっさんとキマリが、世界で2番目にピュアなキッチュをば・・・」
オレは、帰るからな!
「まって〜、ワッカぁ!!もう しません〜。」

 ある意味本気で帰ったろかと、あきれ半分で歩くワッカの耳に、ふと聞こえてきた謎の音。
「ねェ〜、ちょっとしたユーモアだったんだから〜」
(バカたれ。思わず想像しちまったじゃねェか・・・じゃなくてぇ)

鬱蒼と茂る木々。太古の時代より折り重なった倒木が複雑に作りだしたと思われる、うねうねと続く細道。普段、深閑とした森に、小鳥のさえずりでも、葉ずれの音でもなく、響いてくる重低音
「ん?なに?これ?」
気のせいか、地面を細かい振動が伝わってくるような気も・・・
「こっちだ!」
駆け出すワッカ。
      後を追うティーダ。
              接近する、謎の音源。

ふと見やった前方からズドドドド・・・という効果音とともに土煙を蹴立てて全力疾走してくるのは、青い巨体!!

「わ!!」
さすが、なんたらパスだの、かんたらタックルだのと、渡り合ってきたスポーツマン。瞬時の判断で、さっと避けるワッカ。

一本道で細かった。

今まで目の前にいたワッカに避けられて、取り残された形のティーダ。

        高校物理I (に、載ってるかどうか、もう忘れちゃったけど)
   
慣性の法則

物体は動き出すと、動き続けようとするんだわさ。でもって、重い物っつうのは動き出しにくいけど、いっぺん動き出すとスピードもガンガンつくし、エネルギーもバカになんないんだってば。

つまりは「車は急に止まれない」状態

次の瞬間。某OD技をくらった羽虫のごとく高々と吹っ飛ばされたティーダ君は、お空の星になっていた。
効果用擬音「キラ〜ン
   (コメディって、何書いても許されそうだから表現方法楽だなぁ)



「で・・・・・?」

そこいらの地べたに座らせた、でかい青いのと赤いのを見下ろして、詰問口調のティーダ。
ケアルというより、ガーゼとサージカルテープでごまかされた、あちこちの擦り傷切り傷。
左手には赤いのから奪い取ったと思しきサングラス。こめかみには「オレは怒ってんだゾ」マークがくっきりと浮かび上がっている。
きっちり説明してもらう権利があるよなァ、オレ。なんで、こんなところでキマリが大暴走やってるかっつうの。」

「それは・・・・」
「何から説明すればいいか・・・・」
「ハイハイ。今更おっさんから立て板に水の解説を求めようなんて考えてない。こっちで組み立てるから、好きなようにしゃべってみ!」
「・・・長くなるぞ・・・」
オレはメイチェンさんの説明を3度聞いても平気なんだから、気にせんでよし。」

(普通3度目は聞かんだろう)・・・と言いかけて、ここでわざわざまぜっかえすことはないと黙りこくるワッカ。

「・・・・・・・。」
居心地悪そうに、お互いを見やったアーロンとキマリは、やがてボソボソと口を開いた。

「この前、アニキからブリッツボールの観戦チケットをもらった。お前たち2人とメインパイロットが不在では、行動がかなり制限されるので、たまにはいいか・・・と、ルカに観戦しに行った。」

(え?試合、見に来てくれたんだ。)
ちょっぴりご機嫌のなおるティーダ君。
現金。

「トーナメントの試合の合間だったと思うのだが、近くの席にいた男たちの話が耳に入った。最近マカラーニャの森で行われているチョウ探しのゲームの難易度が上がって、とても難しくなったのだが、その分クリアすると以前よりうんと良い賞品がもらえるという話だった。」
「ゲームは2箇所で挑戦できるが、難しくなってから2箇所ともクリアした者は出ていないと話していた。そして、もし、2箇所ともクリアすることができたら、きっと賞品はすごいものに違いないといううわさが流れているとも聞いた。」

(チョウ探しのゲーム・・・・って、あの青いチョウを7匹だか、時間内に見つけ出すと賞品がもらえるっていうアレだよな。)
かつて通りすがりに挑戦して、あっさりMPスフィアとエーテルをもらってきたティーダは、
(ふ〜ん、あれ、難易度が変わったのか)
と思った。

「気にはなったが、不確かなうわさにすぎないし、はたしてどんな賞品が用意されているかまったくわからなかったので、とりあえずキマリと2人でここに来てみたのだ。」
「ゲームをしてみると、前とは違ってじゃまになる赤いチョウの数は増えているし、制限時間は短くなっているようだし、とても一朝一夕にクリアできるものではなさそうだった。」

(アレ?なんだか、まともな話じゃねェの?これ)
怒りのゲージが少々下がり気味のティーダ君。

「そこで、まずマップを作って、青いチョウの出現ポイントと、赤いチョウの移動する妨害エリアを確認して、最短のルートを割り出そうとしたのだが・・・」

(それが、あの紙かよ・・・)

「なかなか時間内にチョウを捕らえることができない。だから、今日は走りこみをやって、少しでもスピードUPをはかろうとしていたのだが・・・」
(そこへオレが来た・・・と)
ティーダの口から、でっかいため息がもれる。

「あのサ、おっさん。そういうことだったら、なんでオレなりワッカなりに言わないわけ?どう考えたって、おっさんとキマリが走るより、オレらがやる方が有利だろうか?!」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」

「やってみると・・・だな、ターゲットがチョウだったせいもあるのだが、ちょっと童心に返れるような気がして・・・だな・・・」
「ルートを割り出す楽しみもあるし、スピード・パラメータを上げる役にも立ちそうな気がしたし・・・」

「まさかと思うけど、ゲームやってて、ハマっちゃったなんて言わねェだろうな?!」
「う・・・・」
沈黙が、すべてを肯定してしまっていた。



(まったくもう、そろいもそろって ガキ大人が・・・)
ゲーム・スタート地点横の木陰にひっくり返って、ティーダは呆れた様子で見つめている。

「たから、ここに出る赤いチョウは、むしろこちらから こう走り抜ける方がいいと思うんだよな。」
「ならば、ルートも・・・こんな感じの方がいいか。」
「お〜、それそれ!!今度はそれでいってみよ〜」

ティーダが問い詰めている間、2人が記入していたチョウ採りマップを眺めていたワッカが、ホテホテと出かけていってゲームに参加したあたりから様相が変わってきた。
タイムリミットで惜しくも7つめのチョウをゲットしそこなったワッカが、その気になってしまったのである。

     なんのことはない。ミイラ取りがミイラ

トライしてみて気づいたプロ(?)の目で見たご意見に、ゲームはまり組2人が活気付く。

「こいつは単にスピードだけありゃいいってもんじゃない。」
と言い切るワッカ。
3人寄れば文殊の知恵。
改良した新ルートをキマリが走り、なんと3度目の挑戦でテレポスフィアをみごとゲットしてしまったものだから、もう勢いは止まらない。

(だいたいワッカ、いくつになったんだよ。少年の頃の思い出へ・・・じゃねェだろ?いまだに虫取り少年やってるんじゃないよ・・・)

さすがに2つめのゲームは、むずかしいらしい。
もう1枚の紙面に書かれたマップにトライするごとにチョウの位置やらなにやらが追加されていって、今度はキマリが走るようだ。

今度は勝つ。勝つと決めた。

(おいおい、蝶々とバトルんじゃないんだからさァ・・・)

ティーダの指先でサングラスがくるくると回る。

(おっさんも、おっさんだぜ。もう自称35だろうが。いつも、こんな度も入ってないメガネでごまかしてエッらそぶってたくせに、なんだよ、そんなに顔に出るタイプだったんかよ。う〜、何度も何度もドタバタドタバタと・・・)
   ブツブツブツブツ・・・・・・

 ま、アレだ。最初、特にやってみたいと思ったわけでもないゲームでも、隣で楽しそうにキャーキャープレイしている連中がいたりすると、仲間はずれになっているのは面白くないっつうありがちなパターン。

 森の夕暮れは意外に早い。ずっと、ただ静かにたたずんでいたゲームの管理人がそっと声をかけてきた。
「今日はそろそろ終わろうと思いますが、あなたも ためしてごらんになりますか?」
「?!」
ゆら〜りと立ち上がるティーダ。

「やンのか、おい?」
「いいから、見てろって。」

ティーダ君、マップを一瞥。スタートラインに立つ。ゲーム開始用の色が変化するチョウにタッチ&ダッシュ!!

「早!」
「だが、コースどりが甘い。」
「あ、そこは右側通るんだよ。」

     タイムアウト

ガキ大人3人は、この時、青年の背後に黒いオーラが立ち上がるのを見たような気がした。



翌早朝。
形ばかりのドアノックとともに勝手に飛び込んできた青年の手で、上掛け用の毛布を引っぺがされたアーロンは、何事が起こったかと飛び起きた。
が、別に非常事態の様子はない。
枕元の時計に目をやると・・・
おい!!こんな朝っぱらから なんなのだ!」
「虫採りにいくっス。」
「は?!」
「10分以内に準備して、移動装置前に集合。いいっスか!オレ、ワッカ起こしてくるっス。」
言うだけ言って、飛び出して行ってしまう青年。

入れ替わりに、半寝ぼけで、まだまぶたの重そうなキマリが顔を出す。
「・・・アーロン・・・」
「だからぁ・・・ティーダだけは誘わないようにと思っていたんだがなァ・・・」


伝説と呼ばれた男の(せんでもよい)苦悩の日々は、まだまだ続く・・・みたいだ。

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