語りたい時もあるんだってば



「浄罪の路・・・だと?」
わざと声に出してつぶやいたアーロンは、今しがた止めをさした魔物から太刀を引き抜いた。動きを止めた「魔物だった物」が淡い光と化して四散していく。
(いったい、誰になんの罪を清めさせようということやら・・・)

とりあえず、周りから不穏な気配は消えた。やれやれ・・・と、軽いため息をついた彼の耳に、接近する2つの足音。そのうちの1つ、軽やかな女性のものがまっしぐらに駆け寄ってくる。
「アーロンさん!」
まるで幼子のように、両手をいっぱいに広げたユウナが半ばぶつかるようにして 彼の身体をだきしめた。

「合流できてよかった・・・お怪我ありませんでしたか?」
「お前こそ大事ないか?」
「はい。」
ユウナはニッコリとして、顔を上げた。
「召喚獣たちが助けてくれました。それに・・・」
そう言って振り返る視線の先に、戦闘態勢を解いて槍を持ち直した若きロンゾ族の戦士がいくぶん誇らしげに立っていた。

「この先に、外界への通路があったはずだ。」
というアーロン(さすが元ベベル僧兵)の言葉に、しかしユウナは首を横に振った。

「他のみんなが気になります。もうすこしだけ探させてください。」
ひとことで「浄罪の路」と呼ばれても、実はいくつかのルートがあって、7人全員がここで合流できる保障はないというアーロンの説明を聞いても、ユウナは、
「もう少しだけ。」
と、繰り返した。
普段、表情少なく ともすれば突き放した冷たさを感じさせる男の口元が一瞬フッとほころんだような気がした。
「つきあおう。ただし、その前に・・・」
彼の視線が瓦礫の向こう側に向いた。
「あそこで、小休止だ。いいな?」
ユウナはこっくりとうなづいた。

よほど、疲れていたのであろう。ユウナは、キマリが小さな焚き火をともす間も待たずネコのように丸まって寝息をたてはじめた。
パチパチと火の粉のたてる音。静寂の中 キマリは、ふと異なる気配を感じた。魔物・・・ではない。しかし、「これ」はなんだ?そろりと指先を伸ばし、槍の位置を確認する。
突然 空間がゆらいだ。確かになにもなかったその場所に、淡い透き通るような青い少年が立っていた。
鍛えぬいた身のこなし、瞬時にして戦闘態勢に入ろうとしたキマリを 落ち着いた声が止めた。
「やめておけ、それは敵ではない。」
(え?!)
青い少年が、少しだけ笑ったような気がした。壁に背をあずけ、まぶたを閉じたままのアーロンが問いかける。
「珍しいこともあるものだな。いいのか?人前に姿をあらわしても?」
「彼なら大丈夫さ。」
初めて少年が口をひらいた。その声は、性別も年齢すらもわからないような不思議な響きをもっていた。
「キマリ・ロンゾ。10年前、君の死に際を看取った男だろう?」
「?!」
キマリは驚きをあらわにして少年を見やった。
「そして、ユウナの保護者。信頼に足る。」
「・・・・・・・・」
ゆっくりと、まぶたを開いたアーロンの目に、疑問符をいっぱいまとわりつかせたようなキマリの顔がうつった。
「キマリ、それは祈り子だ。ユウナにバハムートを召喚させる力を与えている。」

この時のキマリの表情は、なかなかのものだった。唖然として半開きになった口元。漫画的表現を借りるなら、{うっそぉ〜!}という手書き文字が背景せましと躍りまくっているような、そんな瞬間。
キマリがハッと我に返ると、あちらでアーロンが必死に笑いをかみ殺している。うつむいて、細かくゆれる肩が苦しそうですらあった。
「なぁんだ、そうだったの。」
またもや空間から涼やかな女性とおぼしき声。
「じゃぁ、全部知ってるってことね。」
もう1つの別の女性の声。
「なら、出て行ってもよさそうだな。」
別の空間から男性の声。
「そういうことだ。見るからに口も硬そうだしな。」
さらに、も1つ 男性の声。
(なんだ?なんだ?なんなんだ!?)
キョロキョロみまわすキマリを囲むように、4つの人影が浮かび上がった。
     パニック
しつこく、漫画的表現で言うと、べたフラッシュ「ガ〜〜ン!」というデッカイ書き文字。さらに特殊効果音付。
(だれだ あんた達?!)
(どっから出てきた?!)
(全部知っている?キマリはなんにも知らないゾ〜〜!)
もし、そこに疲れきったユウナが眠っていなければ、大声で問いただしたいことがキマリには山ほどあった。

「君にわかる名前で言うと、シヴァ、ヴァルファーレ、イフリート、そしてイクシオンだ。」
ようやっと落ち着きをとりもどしたキマリに、最初に現れた青い少年・バハムート君がメンバーを紹介した。

    ・・・・・バハムート君  いやはや どうでもいいことだが、
    もうちょっと別の表現方法は、ないもンかなぁ・・・。

よろしくねと 差し出されたヴァルファーレの柔らかくたおやかな右手はともかく、続く3人との握手において、キマリが凍傷をおこしそうな、火傷しそうな、感電しそうな錯覚を覚えたのはムリからぬことだっただろう。
「それで・・・」
と、キマリから見たら肝がすわっているとしか思えない伝説のガード氏が、何事もない様子でたずねた。
「おそろいで、なにかあったとでもいうのか?」
祈り子たちは、ちょっと互いの顔を見やったが、返ってきた言葉は拍子抜けだった。
「べつに〜」
「特別どうって話じゃないんだけど・・・」
「いつもの アレか?」
と、アーロンが聞くと、祈り子の何人かがニンマリとした表情を浮かべた。
「・・・・・・・」
アーロンは、あからさまにタメ息を1つもらすと、キマリに言った。
「彼らは、召喚師によって戦闘の場に呼び出され、使命が終了すれば帰還させられる。しかし、彼らとて、休息は必要だし、情報交換の場も大切だ。が、やすやすと人前に出て鋭気をやしなうというわけにもいかん。ま、死人のオレは、波長も合うらしいし都合がいいらしくてな・・・時々訪問を受けてグチなど聞かされるというわけだ。」
祈り子たちは適当に位置を決めると、情報交換という名のつまりは雑談をはじめている。
ヒマなんだナ?要するに、ヒマだから出てきてみたンだな?!
キマリは、思いっきりつっこみを入れたい気分になった。・・・グッとがまんしたけれど。

先にえじきにされたのはアーロンだった。
「ね、聞いてる?あなた、戦闘のプロなんだから、もう少し召喚のタイミングってものをユウナに教えこまなくちゃダメよ!」
右にヴァルファーレ、左にシヴァ。視覚的には両手に花の構図だが、やられていることはつるしあげ・・・
「なぁにぃ この前の寺院でのアニマ戦!私、ユウナと交感直後にあんなでっかいのの前にひっぱりだされたのよ!ODポイントなんかゼロよ、ゼロ!痛い目みながらポイントためろって言うの?!せめてマスター召喚するのが礼儀じゃぁないこと?!わかるでしょ?!」
さすが氷の美女を夢見る祈り子様、ひややかな視線はまるで冷凍ビーム。スピラ全土から伝説とたたえられるオトコが、ただ、コクコクとうなずいている。ご愁傷様・・・キマリは、もう少しでエボン礼をかえすところだった。
「そうよね、タイミングは問題よね。時々ずれるのよ、ユウナの場合。」
今度は右からヴァルファーレ。
「ベベル宮のてっぺんから飛び降りるのはいいけれど、なんで もうちょっと早めに呼んでくれないのかしら。いくらユウナが軽めの女の子でも、ウエディングドレス一式着たらそうとうの重さになるのよ。知ってる?婚礼衣装って重いのヨ?」

注:いや、知ってる?っていわれても、屈強の男2人、ウエディングドレスを着る機会があったとも思われないんで、重いか軽いか知るわけないと思うんですけどねぇ・・・

「落下スピードがついたらただじゃすまないのよ・・・」
なにやらよくわからんが、ヴァルファーレがややこやしい数字をまくしたててアーロンに詰め寄っている。アーロンは・・・と見れば、かつてベベルで戦闘訓練はともかく、学習のお時間が特別好きだったようではなさそうで、なにげに居心地が悪そうである。
(こんな所で、物体落下の法則の方程式なぞ持ち出さんでくれ)
と いわんばかり。
「とにかく、あんなに落ちてから呼ばれたんじゃ、受け止める私が痛いのよ、わかる?呼ぶと決めたらさっさと呼ぶ!きっちり伝えるのよ、いい?!」
コクコクコク。
女って こわい。純情なキマリはこの日認識を新たにした。

「なぁ、兄ちゃん・・・」
美女2人とは比べ物にならないくらい ひかえめな声がした。キマリが振り返ると、そこにはイクシオンの祈り子様。
「私の希望も たのめるかな?いやね、雷平原とかでは、よく呼ばれたものだけれどさ・・・」
「・・・?・・・」
「なんか、相手ときたらいっつもチビちょろサボテンばかりだったんだなぁ。さっき見てたらバハムートなんざ、多種多様の魔物相手に大活躍じゃないか。私もたまには、サボテン以外で呼んでほしいと言っといてよ。」
それは・・・充分思い当たるフシがある。キマリは思い切り大きくうなずいていた。
「じゃぁオレのもたのむゼ。」
とイフリートの祈り子様。
「ビサイド・オーラカの選手控え室、あそこに大事な物がある。だが、なぜかちっとも見つけてもらえない。このままだと、オレだけパワーUPみおくりってハメになりそうだ。いいか、次に行ったら必ずgetして来るんだぞ!」
「必ず 探し出す。」
「ありがとうよ。」
なんか、男達のグチって、気のせいかやたらセコく みみっちく そして悲しい・・・キマリは心中そっと涙した。

えとせとら エトセトラ えとせとら・・・・・

5人もの祈り子が一同に会することは、ざらにあるわけではないらしい。
こんな機会は、最後かもしれないから 全部話しておきたいと・・・思ったかどうか知らないが、祈り子たちのグチのはてしないこと・・・・・いやもう、言いたい放題 し放題。
アーロンとキマリの気力が尽き果てようとした時、
「・・・ぅン・・・」
ささやかな声がユウナの口からもれた。
「・・・おとうさん・・・」

青い少年が音もなく立ち上がる。フワリとユウナのかたわらに立つと、こころもち小首をかしげて しばし無言で立ち尽くす。
やがて・・・少年の姿は闇に溶け込むように消えていった。
気がつけば、パチパチと焚き火のはぜる音。いつの間にか祈り子たちの姿はどこにもなかった。
壁に背をあずけたままのアーロンが、ついぞ見たこともない柔らかい微笑を浮かべてゆっくりとうなずいた。
あぁ、そうだったのか・・・と キマリは思う。寺院を離れた若い召喚師の身を案じ、自分たちは今もなお、お前の味方だと告げるために、あの5人は空間を渡ってやって来てくれたのだと。

木切れを手に、地面になにか図のような物をかきしるしたアーロンがキマリを呼んだ。
「オレは、ここから浄罪の路に入って、ここを進んだ。キマリ、お前は?」
「このあたりは誰もいなかった。ユウナはこちらからやって来た。」
「フム、西の一角が残っていそうだな。ユウナがめざめたら、まず、そちらを探索するか・・・」
「ユウナの前はキマリが守る。」
「ふ・・・、とりあえず後ろはオレにまかせておけ。」
キマリは、ようやく晴々とした気分でガッツポーズをきめてみせた。


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