マーズ・アタック



「なぁ、キマリ・・・」
「?」
「気のせいかもしれないのだが、このところ、あいつの様子が少々妙なのだ。」
「・・・?・・・」
「やたらポンポン言い返してくるし、俺への扱いだけがぞんざいだし・・・。もしかして、あのくらいの歳というのは反抗期というやつか?」
「プッ・・・」
キマリは思わず吹きだしていた。

雷平原。
避雷塔の根元にすわりこんで、所在なげにボソボソと話す、でかい男が2人。
話題の主は・・・といえば、少々離れた位置で落雷を避けながらヒョコヒョコと飛び跳ねている真っ最中

「伝説のガード相手に面と向かって言い返してこられるのは、スピラ広しといえどティーダくらいのもの。それが反抗期のせいだとしたら、キマリは反抗期が怖くてたまらない。」
手のひらに埋まりそうな小さなカウンターをカチャカチャと操作しながらキマリは答えた。
「おいおい、そんなベベルが寺院の都合で言い出した伝説など、今時若い連中に通用するものか。現に俺はリュックからも結構文句をつけられているように思うぞ。」
あ・・・もう一人いたか、特殊なケースの人間が・・・キマリは人差し指をピンと立てるとチッチッと左右に振って見せた。
「あの二人は、むしろ例外だ。反抗期とも関係はない。」
「そういうものか?」
コクコクコク

・・・ ○ ・・・


 昨日のことだった。雷平原旅行公司のミフューレから、飛空艇のルールーあてに連絡が入った。

 いったい、いつ誰が考えだしたか、まったくわからないグループが雷平原には存在する。「旅行公司ビリガン記念委員会」という大仰な名前を持つ、ぶっちゃけた話「雷よけ愛好会」とでもいうヤツ。無謀としか思えないのだが、
絶え間なく降り注ぐ雷平原の落雷を連続して何回避けられるかを競う
というとんでもねェ集まりである。ある程度の防具を固めてチャレンジしてはいるのだろうが、よくまぁ死者が出ないものだと呆れるような話である。

「その委員会が好記録を出した人に、回数に応じて記念品を出しているんですけれど、聞いて、ルールーさん!今度、200回に成功した人には、火星の聖印と呼ばれる物がもらえるんですって。ねェ、これって、前に捜してるって言ってらしたアレですよね?!一番運動神経の発達している人を連れて、早速いらしてよ。」
(ゆうれい、いなくなって、やたらハイテンションのミフューレさん。)

運動神経ねェ・・・召喚士とガードの一行といえば、いわば戦闘のプロ集団である。運動神経の鈍い者に勤まるものではない。しかし、雷をよけるという作業についても、すぐれているかどうかは未知数である。
とりあえず、私は200回もよける体力がないわ・・・とルールーは思った。ユウナにそんなことをさせるわけにはいかないし、敏捷なリュックならできそうだけれど、こればかりは聞くまでもなくパス。そこで彼女はティーダとワッカを連れて雷平原に出かけていった。

・・・ ○ ・・・



「ならば、最近のあいつは、なんなのだ・・・」
どうやらアーロンは真剣に考えているらしい。キマリには思い当たることがあった。
が、それを言ってしまっていいものか?
う〜ん、まぁ悪いことではないのだし・・・
「それは、たぶん甘えているだけだ。気にせず好きにさせておけばいいとキマリは思う。」
「あいつは、もう17歳だぞ。」
「・・・こういう感情は年齢とは関係がないもののような気がする。」
「・・・・・・・。」
「アーロンは今まで、旅行公司に備え付けられている地域の魔物についての模擬バトル体験や、ナギ平原の訓練場で、ティーダの手助けをしてやったことはなかっただろう?」
「・・・そう・・だったか?」
「ユウナやリュックをかばうことはあっても、オレはかばってくれないと、ティーダが言っていた。結構気にしていたようだ。」
「・・・・・。俺は、お前やワッカ、ルールーをかばった覚えもないと思うが。」
「当然のことだ。必要がないことなのだから。だが、ティーダには、そのあたりがなかなかわからなかったのだろうとキマリは思う。」

・・・ ○ ・・・



 雷を避ける・・・これ以上ないくらい単純な作業だが、連続して避けるとなるとかなり大変な労働だった。
そもそも、わざわざ避けなくても普通の人間は避雷塔をたよりに雷平原を通過するのが常識である。
さあ、避けてちょうだいと言われて、ワッカもティーダも面食らった。まず問題なのは集中力をどうやって維持するかである。雷よけをやっている間にも襲い掛かってくる魔物はいるわけで、もはや そのバトル自体はたいした危険性もないものの集中力が分散されて雷よけの失敗につながる。そういったケースが続出した。

「ダメっス。魔物よけなんとかしないと、やってられないっス。」
「確かリュックが、そっちの強力な防具持ってたじゃないか。」
「ムリっス!!ここ、雷平原っスよ。連れてこられるわけないっス。」
「やるしかないだろう。このままじゃ、終わらんぞ。」
「う〜〜」
3人は、ひとまず飛空艇にひき返した。

・・・ ○ ・・・



「この前、アーロンが砂漠で負傷した時、ティーダは相当ショックを受けたらしい。顔色は蒼白だったし、錯乱気味だった・・・まァ誰しも経験があることだ。わからないことではない。だから気になって、夜中に1度、アーロンの部屋をのぞいてみた。」
「・・・・・・。」
「幸いティーダは、だいぶ落ち着いていた。そして・・・ブツブツ文句を言っていた。」
「フッ。」
「うれしさ半分、困惑半分といったところだったのだろう。それで、キマリに聞いてきた。もしも、ユウナとオレが同時に魔物の危機にさらされたら、アーロンはどうするつもりだろう。どちらをかばうのだろうかと。」
「ユウナだろう?それは。」
「キマリも、そう答えた。ティーダが不安そうな気配を見せたので言っておいた。ユウナが召喚士だからではなく、女の子だからだと。自分とアーロンの立場を逆にしてみたらティーダもそうするのではないかと。そんな時は、男は文句言わずに我慢していろと。そのかわり、アーロンは先日、ずっと集めていたレアアイテムを使って、腕輪にオートフェニックスのアビリティをつけていた。だから、実戦に限り他の仲間のためにティーダを見捨てることはありえない。それに、アーロンは守られて残された者の気持ちを充分知っているはずだから、あまりせめてやるなと。」
「・・・・・・・。」
「ティーダは、しばらく考えていた。そしてボソッと言ったのは、それならなおさらムリしてかばう必要なかったじゃないかってセリフだった。なんだか半ベソかいているようだったので、キマリはあわてて部屋を出た。」
「それで・・・か。」
「?」
「目を覚ましたとたん、俺は、大バカ野郎と怒鳴られた。」
「ブッ!!」
キマリは、もうちょっとで手の中のカウンターを握りつぶしそうになった。

・・・ ○ ・・・



 リュックの反応は想像通りだった。
「ルールーのために協力したいのはやまやまだけどォ〜これだけは、ダメぇ!なんならチキンアーマー2人にあげるから。」
「いや、もらってもオレらじゃなァ。」

彼らはミフューレに連絡を取って一般の旅人が雷平原を通過する際、使用するというアミュレットについても検討をしてみた。だが、それらは結構かさばるしろもので、エンカウントしうる、あらゆる種類の魔物に対応するアミュレットをザラザラガチャガチャ身につけたら、今度は雷よけが続けられるかどうか怪しい事態になりそうだった。

 一晩考えに考えたティーダが思い当たったのは、以前魔物の捕獲に出かけて、一向に出会うことなく帰ってきた日のこと。彼は、朝食時の食堂に駆け込むとアーロンの姿を捜した。

「おっさん、オレ達が海の神殿で拾ってきた陽炎どうした?」
「?!」
たまたま筋向いのテーブルについていたキマリまでが、なぜかビクリと反応を返す。
「あれさぁ、もしかして使えるんじゃないか?」
「・・・・(汗・汗)」
「どこ やった?」
「部屋に・・・かたつけてある。」
「オレ、あいつにも魔物よけの効果があるんじゃないかと思うんだ。」

   〜〜〜 チっ、こんなところだけ感のいい 〜〜〜

「だから、あれ持って雷平原について来てくれない?」
「あ・・・いや・・・その・・・」
「おっさんは、立ってるだけでいいから。雷よけはオレがやるから。」
「・・・・・・・。」

    おっさん 内心マジでイヤ

「もしかして、身体まだつらい?遠出するのムリ?」
「いや、そういうことでは、ないのだが・・・。」

   アーロン:キマリ!黙っとらんと助けんかィ という視線
   キマリ:うっかりしたことしゃべったら、かえって墓穴掘りますよ という視線

とうとう、断りきれず雷平原に降り立ったというわけである。
心配して、いっしょについて行くと言い出したユウナには、極力丁寧に丁寧にキッパリとお断りをした。
ユウナを通して、祈り子様達によけいな娯楽を与えることはない!!



 記録用スフィアを仕掛けて、チャレンジするための場所を決めると、ティーダはアーロンとキマリを近くの避雷塔の下へ案内した。
「おっさん、これ持ってここにいて。なんなら、座っててもいいから。キマリ、念のためカウント取っといてよ。」
「わかった。」
かくて・・・・何度か失敗したものの、どうやらコツがつかめたらしく、今度こそ上手くいきそうな・・・


「ロンゾの戦士は皆、何度も泣いて一人前になっていくと言われている。ティーダも一つ成長した。自分とまわりをしっかり見る目ができた。このまま、そっと見守っていればいい。」
「そうか。」
カウンターの数字が170を超す。

「ところで・・・キマリ。話は変わるのだが・・・」
「?」
「その・・・なんだ。やはり、今回も何か魔物の言葉とか・・・聞こえているか?
「!!」
しばし逡巡するキマリ。
「アーロン・・・これが終わったら、また、その太刀はしまっておけ。」
「何を聞いた?」
「・・・あ〜、世の中には、知らない方がいいことは山ほどある。」
「・・・・・・・。」
カウントが200を超え、躍り上がって喜ぶティーダを尻目に、アーロンはこめかみを押さえて、ひたすらうなだれていた。

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