走れチョコボ!


ナギ平原。はてしなく広がる緑の大地。いったい、行き先はどっちなんだぁ〜〜〜っと思わず赤い矢印を探してしまいそうな空間。
お尋ね者扱いのユウナ様御一行の中に妙にテンションの高い青年が一人。
余計な追っ手にじゃまをされないうちにサッサと平原を抜け、ガガゼトに向かおうという年長者の意見に真っ向から立ち向かい、のりと気迫でまるめこんで、すでに数日 リンさん経営の宿にやっかいになっていた。

「この先どんどん魔物だってふえてくるんだろ?オレ、今のうちにできるだけ強くなっておきたい。ユウナだって召喚獣と充分仲良くなってさ、心身ともに経験をつむのが旅の重要な目的なわけだろう?やたら急いで先に進むばかりが能じゃないって。」
ティーダの意見は間違ってはいない。
それに・・・ただでさえ、気が滅入るベベル宮での精神的ダメージを多少なりとも癒したい。口にこそ出さないが 誰にも同じ思いがあるようで、率先してひっぱりまわすティーダの行動は もはや野放し状態といってよかった。




1日目:宿を基点に、急に強さをました魔物を足で振り切ったティーダが、チョコボの訓練の仕方を教えてくれるという「お姉さん」を見つけてきた。長らくこの平原で野生チョコボの訓練を続けているという「お姉さん」は、一見ただのだだっぴろいだけの平原に様々な人が住んでいることを教えてくれた。そして、自分では解明することができなかった いくつかの謎が存在することも・・・。当然それは、ティーダのテンションを高める方向に作用する。ティーダは 俄然やるきになってしまったようだ。

2日目:ティーダはまず、チョコボの訓練をして行動範囲を広げることを提案した。異議を唱えるものはいなかった。「お姉さん」が行うチョコボの訓練は少々奇妙なものであったが、ティーダのスジは平均以上によかったらしく、ずいぶんアッサリと「チョコボ免許」ともいえるものをgetしてしまった。
よほどうれしかったらしく、彼はユウナ・リュックと連れ立って 平原をチョコボで一回りして来ると言って駆け出していった。
残された4人は、待ち時間を利用して「お姉さん」から聞きだせる限りの情報を入手しようと試みた。この先のデータをもたないワッカとルールーからのとくに熱心な質問に対して、「お姉さん」は少し考えながらではあったが、たいへん丁寧な答えを返してくれた。対話に一区切りがつこうとしたころ、チョコボに乗ったティーダが駆け戻って来た。

「南東の奥まったところに寺院を見つけました。」
ユウナが晴れやかな表情で報告する。どうやらチョコボに乗らなくてはたどり着けない場所に 古びてはいるが荘重な忘れられた寺院があって、なんと3人は、そこで旅先で幾度かであった女召喚師・ベルゲミーネに会ったというのだ。
先輩の貴重な話を聞き、あらたに交感をかわしたユウナの召喚獣の訓練をかねた手合わせをして、3人はとても有意義な時間を過ごしてきたらしい。
「よくがんばっているって、ほめてもらったの。」
心底うれしそうな様子のユウナに、ルールーはこぼれるような笑みを浮かべて 愛しい妹のような召喚師の髪を何度も何度もなでてやっていた。
「で、こっちがオレの戦利品っス。」
ティーダがとりだしたのは、小ぶりの鏡だった。寺院の裏手で2羽のチョコボを競走させて、勝ったらもらえたという「謎の物体」。
「なんか古い鏡みたいなんだけど、よごれてるし、肝心の鏡面がくもっていて使い道ないんだよな〜」
彼は無造作に「鏡」をポケットにつっこんだ。

夜、ワッカとティーダがフロを使いにでかけた時、キマリはアーロンに話かけた。
「あの鏡に何かいわくでもあるのか?」
「?・・・いや、特にオレは知識をもっていない。」
キマリは、ちょっと口をつぐんだ後、ことさら言葉を選ぶ様にしていった。
「しかしアーロンには、気がかりなことがあるように見受けられる。」
「・・・・・・・」
アーロンが愛用する大きめのネックガードとサングラス、防具といえば確かに防具なのだろうが、キマリはそれらが戦闘用の防具ではないことを知っている。なぜか、アーロンは仲間に対してさえも自分の表情を見せたがらない、つまりはそのための防具。が、キマリの視線の高さからは、他のパーティメンバーからは巧みに隠されたアーロンの素の表情が手に取るように見えてしまう。彼はティーダが「鏡」を入手して以来、微妙に不安定な感情をもてあましているようだった。
「オレの勝手な感情だ。くもった鏡・・・まるで このスピラを象徴するようなアイテムじゃないか。見るべきものが映らない。」
「・・・・・・・・。」
「ついでに言うなら、このオレとも同じ。見るべきものを見ることができず、知るべきことを知ることができず、なんの役にも立てなくて、あげくのはてに こうして虚像をさらしている。ようは少々ヘコんでいるというだけだ。気にするな。」
アーロンは それだけ言うとサッサと寝台にもぐりこんで眠ってしまった。

この夜、キマリはティーダから「くもった鏡」を借りた。そして、ていねいに布で拭き清めた。よごれは わりと簡単にとれた。が、なぜか鏡が光をとりもどすことはなかった。どんなに心をこめて鏡面を拭ききよめても・・・。

3日目:今日も元気いっぱいのティーダは、文字道理の朝飯前に 昨日仲良くなったチョコボを駆け回らせて、一人の男に会ってきた。平原の東に住むその男は魔物を使った「訓練場」を営んでいたらしいのだが、なぜか使用中の魔物全部に脱走され ただ今閉店中なのだそうである。間抜けな話である。
お調子者のティーダは彼から依頼をうけてきた。
彼が作成した特殊な武器を使用して魔物を捕らえてほしい・・・というものだ。いったい、どんなしくみなのか一応説明はされたらしいのだが、いっこうにチンプンカンプンで、ティーダにわかったことといえば、その武器を装備して魔物を倒せば 倒したぶんだけ「訓練場」に魔物が送られるということだけだった。
それらの武器はかなり値のはるものだったのだが、ティーダはすっかりやる気になっていて、なんと自分のポケットマネーで3種類の武器を購入してきたのである。

「だからサ、一休みしたら平原を回って魔物を集めようゼ!」
勢いよく朝食をかき込みながら宣言すると、彼は新型のボールをワッカに、太刀をアーロンに押し付けた。
「オレもやるのか?」
「強くなりたいっス!」
「・・・・・・・・」
天下無敵の発言であった。

お元気小僧と巻き込まれ2名が出かけていったのが、朝食後わりとすぐ。帰って来たのは夕食時であった。思わず見とれるような勢いで、次々と料理をかたづけるティーダがなおも元気満々で明日の予定などをぶちあげようとした時、
「オレは疲れたンだ。もう今日はかまうな!」
期せずして ワッカとアーロンの声がハモっていた。

入浴後、キマリはたまたま外出しようとするアーロンの後姿を目に留め 不思議に思った。魔物狩りで疲れていると言っていたはずなのに・・・?キマリは少し遅れてアーロンの後を追った。彼は時々あたりを確かめるようにしながら、ゆっくりと歩いていく。やがて行き着いた場所は・・・

「なあ、ここだったのか?キマリ?」
彼は振り返りもせずにつぶやいた。誰も違和感を覚えることなどなさそうな、たんなる平原の一角。キマリは若干の驚きをおさえて、ことばをかえした。
「わかるのか?」
「・・・・・。あの時のことは、あまり良く覚えていない。ただ、今日ティーダにつれられて平原中を走り回った時、なんとなく この場所に覚えがあるような気がした。おまえにユウナのことをたのんで・・・意識が途切れて・・・次に気がついた時、たぶん俺はここに立っていたような気がする。」
「・・・・・・。近くに誰もいなかった。一度、旅行公司に行ったのだが、召喚師は泊まっていなかった。ナギ平原では、たいていの場合 骸を谷底に投棄する。しかしキマリには、どうしてもそれができなかった。ここに、深い穴を掘って・・・埋めた。」
「ずいぶん よけいな手数をかけてしまったようだな。」
「ガガゼトに登る召喚師の一行はいろいろと目にしている。アーロンの姿も見覚えがあった。あの時のガードだとすぐわかった。投棄して、魔物に食われるのはいやだった。放置して、魔物になってしまうのは もっといやだった。だが、他に方法を見つけられなかった。キマリにできるのは魔物になるなと祈ることだけだった。だから、ルカで再会した時は正直言って自分の目を疑った。ごくまれに そういうことがあると話だけは知っていた。が、自分の目で見るのはたぶん初めてなのだろうと思う。」
「結構あちこちに居るものだったな。」
「まったくだ。」
2人は苦笑いをかわした。

「アーロン、ひとつ聴いていいか?」
「?」
キマリは人差し指で鼻の横をポリポリとかくような動作をしながら言った。
「死人というものは、自分の望む姿をとることができるように見受けられる。10年前のアーロンは・・・その、むごい傷を負ってはいたが・・・ロンゾの審美眼に照らしても若くて美しかった。」
「持ち上げても 何もでないぞ。」
「・・・なぜ その姿を選んだ?普通に年齢を重ねることを望んだのか?少なくとも その傷 消し去ることはできたのだろうに?」
「・・・・・・。そうだな、今思うと戦士として不都合極まりない。しかし、10年前の俺は、この姿を強く望んでいたのだろうな。・・・俺は、たぶん自分の未熟さがゆるせなかったのだろう。もっと経験をつんだ大人であったなら、別の結果が得られたかもしれない。せめて、ジェクトやブラスカ様と同等の大人でありたい・・・そう思ったのだろうな。」
「それはつまり、10年前からずっとその姿だったということなのか?」
「この身体になって 初めて鏡を見た時には この姿だった。」
キマリは少し迷った。しかし言葉を継いだ。
「だが、姿形だけ年老いてみたところで、経験豊かな者になれるわけではなかろう。25歳のアーロンは25歳でしかない。それが道理だ。わからなかったはずは あるまい?」
「同感だ。笑えよ キマリ。」
キマリは視線をそらすようにうつむいた。
「・・・それでも、その姿を選びたかったのか?選ばないではいられないことが あったのか?アーロンのガードした男はシンを倒した。召喚師として最高の栄誉を得た。彼を守ったアーロンは、使命を達成したはずではなかったのか?違うのか?・・・いや、聞かない。聞けばすむことではなさそうだ。ただ・・・あの時アーロンがそんな思いで死んでいったのかと思うと キマリは・・・」
日ごろ 見上げるほどのでっかいロンゾの身体が、ひとまわりもふたまわりも小さく見えた。
「ありがとうな。・・・ユウナには俺のような思いをさせないように・・・できるといいのだが。」
キマリは大きく3度うなずいてみせた。
アーロンがつま先で浅く土を蹴る。
「なぁ、キマリ、今ここを掘ったら 俺は俺だった物のかけらなりと見ることができるのだろうか?」
キマリは一つ大きな深呼吸をした。
「それは、やめたほうがいい。」
「そう・・・だな。」
2人はどちらからともなく その場をあとにした。

宿への帰途、アーロンが少し言いにくそうに言葉をかける。
「あのな、さっき10年前から同じ姿だといったが・・・」
「?」
「正確にいうなら、10年前はもう少しだけ若かったんだぞ。」
「は?」
「俺はあの後、ジェクトのたのみでティーダのもとに行った。ティーダは7歳で、初等教育を受け始めたばかりのころだった。物怖じしない元気な子で、今と違って素直でかわいかったんだぞ。」

え〜と・・・キマリは笑っていいのか悪いのか 少々困った。

「だが、一年足らずで母親が亡くなり、天涯孤独の身になってしまった。周囲の人々から好かれていたのが幸いして、いつも笑顔を絶やさない子だったが、内心はたいへんだったのだろうとおもう。」
「いっしょに住んでいたのではないのか?」
「いや、通いだ。時々様子を見に行っていた。なにしろ最初はボロを出さないかと こちらも気がきじゃなかったのでな。」
ああ〜なるほど・・・死人の初心者であるわけだしね。キマリは変な納得をした。

「ある日、いつになくティーダが沈んでいて、聞いてみると1枚のプリントを引っ張り出した。授業参観のお知らせというものだった。」
「それは、なんだ?」
「保護者が、子供の学校に出かけて行って、授業中の様子を見学させてもらえるのだ。ティーダが通う学校は、恐ろしく教育熱心なところで、いろいろなイベントに保護者を参加させるシステムがあったんだ。」
子供にとっては ありがたいシステムかどうかわからんな〜とキマリは密かに思った。
「代役が利くのかどうかわからなかったが、俺はそれに参加した。以来ティーダはことあるごとに保護者宛のプリントをさしだすようになった。」
「・・・?・・・」
話の流れが見えないな〜というキマリの表情。
「たいていのイベントは見学していればすむことで、それでティーダが喜ぶのなら楽な仕事だった。」

・・・・・・仕事なのか それ?・・・・・

「だが、年に3度ほど3者面談というものがあって・・・」
「さんしゃめんだん?」
「保護者と子供が、学校の先生のところに行って、学業成績とか生活態度についてのお話を聞かされるイベントだ。」

ウ・・・それは・・・結構イヤなイベントかもしれない。

「先生は必ず出席してほしいと強く要請する。やむなく出席するのだが・・・その・・・なんだ、ティーダは学校が好きで、勉強も大好きなのだが、好きであるのと成績が良いということとは別のことであるらしくてな・・・」

うわぁぁ〜、ヤな展開。

「体育はいい。文句のつけようがないくらいすばらしい。が、それ以外は、なかなか寂しかったりするのだ。先生は、はなからティーダがやがて父親の後をついで ブリッツボールの世界をめざすものと決めてかかっているようで、あまり学業についてのきびしい注意を受けたわけではないのだが、俺としては針のむしろで・・・そいつが 年に3回だ。なんか 行く度に髪に白いものが増えるようで・・・8年ほど続けた結果がコレだ。」

保護者って・・・保護者って悲しい。

「まぁ、おまえも やがて妻をめとり子をなしたら経験することになる話だ。」

しなくってイイです!キマリは腹の底から叫びたかった。


旅行公司、すでにシ〜ンと寝静まった男用4人部屋の中に よほど疲れきっているのかワッカのいびき。アーロンはティーダの寝台の横に立つと小声でつぶやいた。
「まったく今日は、これ以上死にようがない俺を 後3〜4回殺しそうな勢いでひっぱりまわしてくれたよな。」
デコピンを一発。彼は右手を少しあげてキマリへの挨拶の代わりすると、自分の寝台にもぐりこんでいった。

4日目:朝食を取りながらユウナが話しかけた。
「もう一度ベルゲミーネさんのところに行って、いろいろお話を聴きたいのだけれど、だれか・・・」
同行してもらえるかなぁ〜という言葉が出る前にサッと席を立ったのはアーロンだった。
「よかろう。ワッカ、調理場に行って昼食になりそうなものを3人分用意してもらえ。」
ワッカがバッと立ち上がる。いつもにまして反応が早い。
「ティーダ、新しい武器を購入する資金は俺がだす。ユウナ、チョコボを借りに行くぞ。」
「はい・・・?」
みごとな脱出劇であった。ハッと気づいたルールー・リュック・キマリの顔から血の気がひいたときには、すでに手遅れである。生き地獄のような半日が待っていた。

どこまで出かけたことやら、日がとっぷり暮れた頃 あいかわらずやたら元気なティーダと、見るからにボロボロのリュックとキマリが帰ってきた。
「おっちゃん ずるいよ!逃げるなんて!」
「すまん。」
しかしリュックの腹の虫はおさまらない。
「ティーダったら、訓練所のおやじさんからデッカイ袋にいっぱいのポーションと毒消しと目薬と、う〜んと とにかく山ほど差し入れしてもらって、ダイジョウブだからって引っ張りまわすンだよ!」
「ついでに、取り出しやすいように1つ別の袋を持っていて、それにはギッシリ フェニックスの尾が入っていただろう?」
リュックの目に大粒の涙が湧き上がる。体当たりぎみにアーロンにつめよると、ワーワー泣きながら両手でポコポコ彼の胸板をたたきつづける。
「わかってて逃げたぁ〜」
視界の片隅にコソコソとにげだすユウナとルールーの姿。
がんばって 明日の作戦でも立ててくれ・・・アーロンは、少女の頭に手をのせると、かえって怒るかなとも思いつつ、ナデナデと動かし続けるのだった。

ようやっとリュックをなだめすかして、夕食をとらせ、でかい男たち3人は入浴。今日ばかりはワッカもアーロンもキマリにサービス・サービス。ブラッシングして、お背中流して、マッサージのまねごとやって・・・部屋にもどったら、元凶の青年はとっくの昔に白川夜船。当然のごとく 本日のデコピンはキマリから炸裂。

「なぁ、キマリ、今日はどのあたりまで行ったんだ?」
洗髪後のお手入れをしながら ワッカが問う。
「ナギ平原をひとまわりしてから マカラーニャの森の入り口あたりまで。」
「マカラーニャ?!」
「そんな所まで行ったのか?!」

もしかして、俺たち1日目でよかったのか・・・ワッカとアーロンは同じことを考えていた。

「魔物1種類につき10匹まで捕まえられるとかで、ティーダがやたらはりきるのだ。おかげでキマリは敵の技を2つも覚えた。」
あれか・・・2人の連想したものは また同じ。
「一日でずいぶん強くなったような気がする。しかし、正直言って明日もやりたいとは思わない。今朝のアーロンの気持ちが身にしみてわかった。」
「すまん。」
本日2度目、アーロンは深ぶかと頭をたれた。

「やっぱ明日はユウナとルールーかな?」
ワッカのつぶやきに、身がすくむ男たち。助けるべきか、ほっとくべきか・・・3人とも口に出すのがこわかった。
ふと思い出したようにキマリが荷物を探る。満足そうに取り出したのは2日前にティーダが入手した小型の鏡。彼はそれをアーロンにさしだした。
「?・・・!」
澄み切った鏡面。一点の曇りもない鏡に はっきりと自分の顔が映っていた。
「磨いたのか?」
キマリは首を横に振った。
「それは、ふつうの鏡ではないらしい。一度磨いてみたのだが、なぜか曇りが取れなかった。が・・・今日、マカラーニャの森で不思議な場所を見つけた。なんとなく頭の中がゾワゾワする感じの場所だ。」
「ぞわぞわ?」
「言葉にしにくいのだが、特別の力が働いているような場所だった。急にティーダのポケットに入っていたその鏡が反応して、取り出した時には様子が一変していたのだ。」
「なんかの役に立つかもしンねえな。」
キマリはコクリとうなづいた。
「アーロン・・・少しは気が晴れたか?」
「?!」
彼は何かを言いかけた。が、黙って鏡をワッカに手渡しただけだった。
キマリは自分の寝台に横になると、満足そうにまぶたをとじる。ほんの一瞬アーロンのひとみに浮かんだよろこびの色を確かに見たと彼は思った。

5日目:早朝 ティーダは朝もやの残る平原をチョコボに乗ってかけまわっている。
「同じもの食って、なんであいつだけ あんなに元気なんだ?」
おそらく6人が6人ともに思った疑問。
ニヤリと笑ったリュックがアーロンに告げる。
「おっちゃん、今日あたり身体つらいでしょう?」
「?」
「歳とると、ちょっと後になってから疲れが出るっていうからぁ〜」
「リュ〜ック!!」
大慌てのワッカが、少女の腕をひっつかんで アーロンからひっぱがしたが、すでに免疫ができているのか 年長者はため息をひとつもらしただけだった。

公司の一角にあるアイテムショップに明るいお客さんの声。
「おはよう〜。ポーションわけてもらえるかしら?」
「はい、おいくつ?」
すっかり顔見知りになった チョコボ訓練の「お姉さん」だった。ユウナ達に好意をもってくれているらしい「お姉さん」は、買い物をすますと どこで入手したのかと思うようなベベルの最新情報をもらしてくれた。
情報通の彼女がユウナ達の正体を知らないはずはない。が、彼女はあくまでも ユウナ達を単なる召喚師の一行として扱っている。
エボンのすべてが敵なのではない・・・ユウナ達にとって なによりもうれしいことであった。

一通りの情報交換が終わったころ、やたら元気なチョコボに乗った チョコボに輪をかけて元気なティーダが駆けもどってきた。そして「お姉さん」の姿を認めると、これ幸いとばかりに話しかける。
「北西の崖っぷちにたってるおじさん!何っスか?!」
なにやら、平原の北西のはずれに崖下におりる小道があって、その道の向こうに怪しげな紋章のようなものを見つけたらしい。しかし、道の途中に一人の男が立っていて、先に進ませてくれなかったというのだ。「お姉さん」は彼のことを見知っているらしい。
「あの人 面と向かってたのんでも、絶対通してはくれないけれど・・・実はチョコボレースとか大好きでね、私が旅人とチョコボの訓練をしていると時々見学にくることがあるのよ。」
つまり、見学に来ている間になら道の先まで進めるだろうということだった。

「チョコボの訓練する?」
     にっこり
「もちろん、やるっス!!」
     ガッツ・ポーズ

ティーダはやる気満々だったのだが、今回の訓練は輪をかけて珍妙なものだった。進路上の風船を取りながらやたら飛来する鳥をかいくぐってチョコボを走らせ 好タイムで「お姉さん」に勝つ・・・それが「あのオジサン」をひっぱりだす条件だというのである。
ただし・・・本気になった「お姉さん」はむやみやたらと強かった。若葉マークのチョコボ乗りに到底太刀打ちできそうに無いほど・・・。

やがて日がかたむき、夢も希望もないといいながら、あきらめきれない様子で硬くにぎりしめているティーダの右手を見たとき、キマリはついお節介をやいてしまった。
「なに、キマリ?」
だまって指差した先に 女性群3人が談笑している。そのすぐ横に・・・いつの間に集まってきたものか平原に住む野生のチョコボが数匹。その中でもかなり大きめの個体がペッタリと座り込み ふっくらと羽をふくらませている。それにもたれかかって、さし伸ばされた黄色い鳥の頭を所在なげにグルーミングしてやっているのは、
「おっさん?・・・・」

そうとう異様な光景ではあった。

「そう言えば、ジョゼの寺院でもおっさんやたらおサルに懐かれて・・・」
ひらめくものがあったらしい。ティーダはすたすたとアーロンに近づくと遠慮なく言い切った。
「次、おっさん 走ってよ。」
「ことわる。」
間髪措かない即答だった。
「なんで、ヒマそうじゃん。1回だけ。」
「いやだ。」
「ためしに走ってみてもイイじゃん。」
「終了するのなら オレは宿に帰るぞ。」
「待てってば!」
ティーダは意地になって言い返した。
「上手くいったら謎が1つ解けるんだよ。協力してくれたってイイじゃないか!」
「必要なものは自分で努力して手に入れる。安易にヒトをたよるものではない。」
理屈でかなう相手ではない。しかし、ティーダには裏技があった。
こんなに頼むって言ってるのにさぁ・・・ヒドイ・・・ひどいよ・・・、血も涙もナイよ・・・。」
     どこかで聞いたようなセリフのパクリ・・・

「あのなぁティーダ、そういうセリフは175cmもある男が言っても かわいくもナンともねェんだよ!」
あきれ半分 ワッカのつっこみ。
しかしアーロンは右手でこめかみを押さえながら立ち上がった。どうやら「子供のだだこね」にはさからえないタチであるらしい。
「オレがやったところで、どうなるというものでもなかろうに・・・」
今しがたまで、アーロンの背もたれになっていた、チョコボがガバッと跳ね起きるとひとこえ高らかに「クエェェ〜ッ」と啼いた。そしてホテホテと男の後をついていく。「お姉さん」は なぜかちょっとびっくりしたような顔をしたが、おおきめの鳥さんに上手く鞍をつけてやった。準備完了。

出発地点にたどりついた時、アーロンをのせたチョコボの眼が、キラッと光ったような気がしたのは、思い過ごしではなかったかもしれない。
スタートの合図とともに鳥さん猛然とダッシュ!あわてたアーロンは鳥さんの首にしがみついた。
「え?」 「あ?!」 「うそ!」
舞い飛ぶカモメなどものともせず、アーロンの鳥さんエンジン全開。あちこちの風船華麗にget。「お姉さん」のチョコボなど蹴散らす勢いでさらにスピードUP。あっという間にゴールに駆け込んでいった。
(アーロンひたすらしがみついているだけ・・・)

途中で勝負を投げたらしい「お姉さん」は、メモ帳片手になにやら計算して、にこやかに笑うと「はい。」とティーダに小箱を寄こした。
「それ、特別賞。かなりレアなアイテムなんだから、大事に保管しておくのよ。」
そして、チラリと視線を向ける。そこには 例の「とおせんぼおじさん」が・・・それと察したティーダは「ありがとう」とウインクひとつ。勇んで北西の崖に駆けていった。

それに気がついているのかいないのか、「おじさん」は えらく上機嫌で、「お姉さん」に勝った新人に拍手した。
「いいレースを見せてもらった。こういうこともあるものかと感心したよ。」
どうやらイヤミではないらしい。「おじさん」は知らなかったのか?と説明した。
「そのチョコボは、ナギ平原広しといえど、右に出るものもないスプリンターだ。ただし、今までダレの手にもなれず、鞍を置かせたことも ましてヒトを乗せて走ったところもみたことはない。」
手放しの賛辞だったようだが、居合わせた全員は、赤くなったり青くなったりだんまりを決め込むばかりだった。

その夜、とっくに日が落ちてから、旅行公司に息せき切ったティーダとユウナが駆け込んできた。
「見て(ハートマーク・音符マーク・星印)」
喜色満面のユウナが一本の美しい杖をさしだした。
「こっちが俺の。見てくれよ!!」
差し出されたのは、青く輝く一振りのみごとな剣。

「どしたんだ、それ?」
「鏡っス。」
北西の崖を下りる道を少し進んだ場所、今朝見つけた謎の紋章があるところに接近したところ、輝きを取り戻した例の鏡が反応をしめした。ティーダがためしに鏡をかざしてみたところ、紋章の記された岩肌が消滅し、なかから一振りの剣を入手したというのだ。
「で、きのう魔物を集めてくれたからって訓練場のオヤジさんがくれた、鍵の開かない宝箱があったじゃん、アレに鏡で光をあててみたら、大当たり!入っていたのがその杖ってわけ。」
ニコニコニコニコ。ユウナは本当にうれしそうだ。

「アーロンさん、ワッカ、キマリ、魔物たくさん集めてくれてありがとう!」
彼女は右手をひらひらっと動かして男達をかがませると
「これ、感謝の印ね。」
3人のほっぺにキス3つ。そのままリュックのところにかけていって両手をとりあってピョンピョン飛び跳ねて喜んでいる。男達はちょっと照れくさそうに笑いあった。

「じゃ、今度オレね。」
・・・・・はい?・・・・・

「アーロン、チョコボで勝ってくれて ありがとう!これ、感謝の印ね。」
「間に合っている!!」
飛びつこうとしたとたん アーロンにサッとかわされたティーダは、おもいきり床につんのめった。
「なんでェ〜、ユウナは良くって なんで俺だめなのォ〜?!」
「あンなぁ〜・・・・」
ワッカが心底疲れきったような声を出す。
「一部極地的に集まってキャーキャーやってる腐女子のことは知らんが、普通 男は成長後の男からのキスなんかほしくないって。」

     注:すみません、ワッカ兄、それ私のことでしょうか・・・?

ティーダはムッとふくれた。なんか言い返さないとおさまらない。よし。
「ひどいよ。アーロン。・・・かつては、熱く燃える俺の身体を抱きしめて一夜をすごしてくれた日々もあったのに・・・」

     青い稲妻
     場が凍りついた。

「確かにな・・・最後におまえが風疹をこじらせて熱を出した時は、丸2日オレにへばりついていたよな。参考のために聞くが、何歳だったかな?」
いつも以上にドスのきいた声。
「や、やっちゅ。」

     脱力〜

「あのね、教えといてあげるわ。それ、医学的専門用語で、保護者の看病っていうの。わかった?」
「・・・はい・・・」

ああ、こいつもルールーには一生頭が上がらないタイプだなとワッカは思った。

「杖と剣・・・」
つぶやくようにキマリがもらす。
「スピラのどこかに もっと他の武器が眠っているのだろうか?」
「・・・・・。楽しみが増えたな。」
アーロンはキマリにだけわかる微笑をもらしていた。

                                                    もどります



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送