マイ・フェア・ジェントルマン


アニキ、スピラ共用語に挑戦す。
今回はアルベド語同時通訳でお送りいたします。

 頼みたいことがあるのだが・・・というオレの言葉に、彼らは、いとも簡単にうなずいてみせた。昼食時は、もう終わりかけているものの、食堂のテーブルには、かなり多くの乗務員達が残ってなにげない会話を楽しんでいる。
「ここでは話しにくいことか?」
と、キマリが聞くので、苦笑いをしたら、
「なら、俺の部屋へ行こう。」
と、アーロンさんが席を立った。

 搭乗者の部屋を全部確認してみたわけではないが、アーロンさんの部屋は殺風景だ。
ホームを失って以来、すでにかなりの日数がたっているアルベド人達の個室には、いつの間にかゴチャゴチャと雑多な物が増えてきているのに、ここにはろくに生活感というものがない。武器と防具そして着替え等の必要最低限の持ち物は、クローゼットの中に入りきってしまうらしく、目に付く物は、備え付けのベッドと小机、折りたたみ式のパイプ椅子が1つだけだ。

 まぁ、最近は彼が増やしたわけではない物体勝手に出入りしているらしくて、今もそいつがベッドの中央を占拠して眠っている。オレの目にはクアールの幼体にしか見えないのだが、リュックが猫だと言い張るので、そいつの名前は「ネコ」ということになっていた。「ネコ」は気まぐれだから遊びたい時には艇内を駆け回っているが、一日のうち半分は眠って過ごすらしく、そんな時には、よけいなちょっかいをかけられない場所へ移動する。ここは、どうやら第一候補地であるらしい。

 アーロンさんは、すでにあきらめているらしく、オレにパイプ椅子を勧めると、自分はベッドの枕元に腰を下ろした。たぶん、彼に断りもなくゾロゾロ増殖しない限り「ネコ」の安眠は保障されるのであろう。

 キマリは、ごく自然に立ち位置を決めると直立不動で静かに待つ。
二人とも別にせかすでもなくオレが切り出すのを待っていてくれる。日頃騒がしさがウリのような家族の中にいると、こういう大人の扱いというか落ち着きというかが、オレにはとてもうれしかった。


「実は・・・」
とオレは口を切った。
スピラ共用語をマスターしたい。
これがオレの望みだった。以前からその意志はあったのだが、飛空艇を入手して5人のスピラ人(と言い切れないヤツもまざっているようだが)と、付き合うようになって、その必要性はますます強く感じられるようになった。
極めつけは最後にやってきた、いとこのユウナだ。
なぜか、やたら語学センスにひいでている妹が自由自在にスピラ語をあやつってペラペラ話しているのを見るにつけ・・・顔をあわせるたびにニッコリ笑って片言のアルベド語で挨拶をしてくれるユウナを見るにつけ、オレはどうしても共用語をマスターしたくなっていた。

「オレは、どうやらみそっかすで、家族の中で一人だけ語学のセンスにめぐまれなかったらしい。」

アルベド族の中で最も語学に秀でているのはリンさんの家系で、彼は一族の語学が達者な若者を集めて公司の運営にあたらせている。彼は親切にオレに語学を教えてくれるのだが、公司の経営に多忙な身でもあるから、いつもいつも飛空艇にいられるわけでもない。語学は日々の繰り返しが大切だという彼の意見に従って、オレは毎日短時間ではあったが、オヤジと共用語の学習を続けた

が・・・・

「アニキのスピラ語って、がさつだァ。」
と、リュックに言われてしまった。

オヤジのスピラ語が、がさつだから、オレにもそれがうつってしまったのだ。

「・・・シドさんのスピラ語は、豪放磊落、多少言い回しは荒っぽいが、男らしくてなかなか好いとキマリは思っている・・・。」
せっかくフォローしてくれるキマリの気持ちはうれしいのだが、オレは知っている。

オヤジはユウナ達の前ではネコをかぶっているのだ。

オヤジは亡くなった最愛の妹の面影を濃く宿したユウナがことのほかお気に入りで、彼女の前では極力紳士的に振舞おうと努力しまくっているのだ。あれでも
だが、もともとオヤジが共用語をマスターしたきっかけというのは、大切な妹をかっさらっていったエボン僧のブラスカさんに、文句の1つや2つや3つや4つ・・・ぶちまけようとしてのことだったのだから、上品なキングズ・スピラ語(?)であるわけがない。
オヤジの正体が知りたければ酒の1杯もおごってみるがいい。すぐにシッポを出すだろう。
ん?アーロンさん、笑いましたね。心あたりがあるとみえる。

「とにかく、リュックのセリフではないが、オレはユウナを守りたい。物思うユウナの相談相手になれるものなら、なってやりたいし、ティーダだっけか?恋愛問題のアドバイスくらいしてやりたいのだ。それには、どう間違ってもガサツなスピラ語はふさわしくない。」
「なるほど。」
「そこでオレは、下げたくもない頭を下げて、リュックに勉強の相手をしてくれるように頼み込んだんだ。」
「うむ。」
「が、今度はオヤジに言われてしまった。そのキャピキャピした若い娘っ子のようなセリフまわしはやめにしろと・・・。」

とたんにアーロンさんから、ククッという小さな笑い声が聞こえた。彼は慌てて謝ってみせたが・・・いや、言っているオレが一番笑い事だと思っているんだから、やむをえないことだろう。モヒカン頭で粋がっているデカイ野郎が、口を開いたら娘言葉・・・では気色悪いだけだ。

「だから、恥を忍んで頼むのだが・・・オレの共用語勉強の相手になってもらうわけにはいかないだろうか?」
二人は黙って顔を見合わせた。そしてキマリが言った。
「アニキは対話相手のクセに染まりやすいのだろう?ならばキマリはダメだな。間違いなくロンゾなまりのスピラ語になってしまう。またまたリュックあたりから、からかわれるのがオチだ。」
そうか・・・共用語ということは、やはり土地土地によって方言・なまりというものもいろいろあるというわけなのだ。


 オレ達のおしゃべりがうるさかったのか「ネコ」が目をさまして大きく伸びをする。う〜ん、こうやっているしぐさは確かに猫なのだがなぁ・・・。「ネコ」は部屋の主をみとめるとトコトコと近寄って、当然のような顔つきで膝の上によじ登り、のどをゴロゴロ鳴らしながら丸まってしまった。
ためしに、
「アーロンさん、猫好きなのですか?」
と聞いてみたら、
「特別に猫が好きというつもりはないのだが・・・。」
と返事が返ってきて、
「もし、こいつを野に放てと言っても、入れ替わりに{}という名のなにかを拾ってこられそうだし、それを捨てさせても{}という名のなにかがやってきそうだから、もう、よけいなちょっかいは出さないことに決めた。」
とサラリと言われてしまった。
う〜む、それは確かにありそうだ。エスカレートして「ちょっと妙ちくりんな植物」とか言いながらウニョウニョした緑色のヤツを持ち込まれたら、えらいことなので、オレも極力黙っていよう。
でも、アーロンさん、そいつ たぶんそのうち、やたらとデカくなりますよ。覚悟決めているんですかねぇ。


 さて、方言問題というものを考慮に入れるとしても、ベベルの僧兵出身と聞くアーロンさんなら、なんの問題もあるまい。しかし、彼は静かに首を横に振った。
「協力したいのはやまやまなのだが、たぶん俺の話し方はアニキには合わないだろう。」
「アーロンさんは、ベベルの出なのだろう?」
「ああ、生まれは地方だがな。」
「ベベル宮で使われる言葉がスピラ共用語の大本になっていると、リンさんから聞いた覚えがあるんだけれど・・・」
「それは、事実だ・・・。」
アーロンさんは少々複雑な表情を浮かべて、慌ててサングラスをきっちりかけなおした。
???
「実はな、昔、言われたのだ。話し方が堅苦しいと。まわりに高位高僧があふれているベベル宮で生活していれば、皆似たような話し方になると思うのだが・・・。そいつには、無愛想だとも言われた。アニキは何歳になる?俺は、そいつから、青臭いことを言うくせにセリフに若さがねェと、決め付けられた。まだ25歳だったのに・・・。」

たぶん、笑えと言っているのだろうが・・・笑っちゃまずい・・・よな、やっぱ。

「というわけで、アニキがその歳でおっさんくさいしゃべり方に染まるのはかんしんできん。むしろ、歳の近い者を相手にする方が良いのではないか?」
「女性のセリフまわしが困るというのなら、少々ビサイドなまりはあるがワッカもいる。勢いがよすぎるがティーダでもいい。」
「勉強の時間という言葉にこだわらなくても、いつもより彼らとの会話時間を10分でも15分でも多くとれば充分なのではないか?」

う〜むむ、なるほど。それは確かに一考の余地がある。

「第一な・・・」
とアーロンさんがつぶやくように言う。
「何らかの学習をしようとする者が、恥やひけめを感じることは、まったく必要ないと俺は思うぞ。スピラ語を話したかったら、遠慮せず誰にでもどんどんぶつかっていけばいい。」
「・・・・・・。」
「俺なんかなぁ、この歳になって、いかに自分が何も知らずにきたか、ようやくわかってきて、そっちのほうが赤面することばかりだ。アニキは、これからだ。時間も・・・ユウナが作ってくれる。」



 この前ワッカが言っていたよな。「年の功」だって。
 オレは、なんだか、この2人に話をしてみてよかったという気がしていた。
 よっしゃ、確かブリッジにワッカがいたよな。いっちょダベリング(オヤジ古いよ、この単語)に行ってくるか。




アニキのお勉強は短期間で着実な成果をあげたようだ。その後、シンとの最終決戦にいどむさい、飛空艇を強大なるシンの真正面に向けながら、彼は高らかに言い切る。

         まかせろ、オレに。送って・・・やる。

         間違い・・・ない、っス

あり?  え〜と・・・。

なんか、後々、永遠のナギ節の間に、アルベド人のスピラ共用語が、体育会系にそまりそうで、すっごく不安なんですけどぉ・・・

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