116歩+αのマーチ



今度は強くてカッコいい武器がほしいの!!と激を飛ばしまくるリュックの勢いにのまれて、飛空艇の技術者達は多忙な日々を過ごしていた。作業操作そのものは特別の技能を要するものではないらしいので、随時手の空いている者が交代して試行錯誤を繰り返すのであるが、世の中そうそう上手い話が転がっているわけではない。

それでも、たまたまブリッジに来ていて「キノコ岩戦場跡」への移動データを見つけたアルベド・サイクスのエイガーは、思いがけずルールーからの「感謝の印」を受け取る栄誉を勝ち取り、天にも昇る思いをした。
(まァ、もっとも その直後にブラッパとベリック、ルムニクからの荒っぽい賞賛を浴びてボコボコにされたようだったが・・・)

ミヘン海上遺跡へのデータを見つけた技師は、そこでリュックが武器を入手したと聞いた時、これでゆっくり眠れる・・・と思ったらしいが、帰還したリュックから
「もうワン・ランク上をめざしてみよォ〜!」
という、暖かい?励ましの?セリフとともに食堂のチケット1ヶ月分を渡され、翌日丸一日疲労で寝込んでいたようである。(合掌)

その間空席となった技師のパネルをさわっていたティーダは、ビギナーズ・ラックというか、なんとビサイド島3ヶ所めの移動データを見つけ出した。行き先がビサイド島ということで、島関係者4名が移動し、普段たぶん行き着くことは不可能だと思われる滝つぼ内の岩場の風景を堪能した上で、キマリ用のドラグーンスピアを入手してきた。
キマリは、この槍をよほど気に入ったようで、帰還してティーダを見かけるやいなや、骨も折れよとばかりにガバッと抱擁し、両頬に熱いキスを繰り返した。
     ティーダ君 ほぼ石化。

この夜、そろそろベッドに入ろうかという時刻になって、アーロンはティーダの訪問をうけた。
「今、ワッカのとこにも行ってきたんだけど・・・」
ティーダは、いつもの彼らしくなく、ボソボソと話しかける。
男のレベルが上がったようで、よかったじゃないか。」
「それだけどさ・・・」
タメ息が1つ。
「もし、おっさんと、ワッカの装備品をオレが見つけることがあっても、オレ 遠慮するからな。」
「??」
「キマリって、顔の毛皮まできっちしゴワゴワで固いンでやんの。もう、タワシでこすられているようなキスはごめんだ。おっさんもワッカも無精ひげはえてるからな。オレぜったい権利放棄。じゃ、そゆことで おやすみ。」
言うだけ言うとティーダはそそくさと帰っていった。
そういう問題なのかよ・・・。
期せずしてアーロンとワッカが自室で大笑いしていたことは誰も知らない。


翌日、ティーダとワッカは、ブリッツボールの試合出場もかねてルカに降り立った。つい先日、やはり試合に来ていたユーダとラッカムが、
「ルカ・カフェのオヤジさんが秘蔵しているお宝を、ブリッツボールの名選手にならゆずってもいいと言っているんだけど、どうやら その品というのがかなりすぐれ物の武器仕様ボールらしいのよ。」
という話を持ち込んできていたので、いつも以上に試合に熱も入ろうというもの。
ティーダの加入以来絶好調、負け知らずのビザイドオーラカは、この日も連勝記録を塗り替え、ものはためしとルカ・カフェに出向いてみた。
もしかすると・・・カフェのオヤジさんは異常連敗チーム時代からのビサイド・オーラカのかくれファンだったのかもしれない。彼は、やって来たオーラカのメンバーを歓待すると「大召喚士オハランド様御使用のブリッツボール」という、どこまで本当なのかわからないような一品を取り出してきて、惜しげもなくワッカに進呈した。
ワッカの瞳が輝く。伝説の真偽はともかく、それが相当強力な武器であろうことは誰の目にも明らかであった。
しごく、ご満悦なワッカは
「タワシのキッスは評判ワリィっつうことだかんなァ。」
と、ティーダをつつきながら、ユーダとラッカムのために近年ルカ名物と呼び名が高い焼き菓子を2箱ゲット。
そして、ミヘン街道への出口あたりで待っていたアーロンとアニキに合流した。



「で、そのラクガキが書いてある遺跡ってのは、どれっスか?」
ミヘン街道は小さめの古代遺跡が多数残されていることでも有名である。
「ルカに近い遺跡だという話だったが・・・」
さきほどから地図をながめていたアニキが、アーロンの袖をツンとひっぱった後、1つの遺跡を指さした。
「あれ・・・か。」
4人は遺跡を目指した。

風雨にさらされた文字は損傷がひどくて解読がむずかしくなりがちだが、幸いそこの文字は遺跡の内側に掘り込まれた物だった。

「・・・こ・・・う・・・わ・・アレ?だか、・・・い・・・」

ティーダの学習の成果は一応でているようで・・・しかし、ずいぶんと長いラクガキであった。サラリと一読して、くるっときびすを返したアーロンは次の瞬間思わずつんのめりそうになった。ティーダが上着背中の布地を思い切りわしづかみにしている。

「・・・・・・・。」
「・・・た・・・にに・・ち・・・」
「まだか。」
「もうちょっと。・・そ・・・の・・・」

ワッカとアニキが笑いをこらえている。

「とりあえず、手をはなせ。」
「ヤダ。・・・た・・に・・・の・・・」
「逃げんから。」

たまたま通りかかった旅人が、この様子を目にとめて、クククと小さく笑いながら過ぎていく。なんか伝説のガードの威厳丸つぶれである。

「・・を・・・み・・よっと。おし、読んだと。」
ようやくティーダが手をはなす。あわてて衣服を整えるアーロン。
「で・・・?」
「は?」

全部読んだはずなのに、なぜか説明を期待している様子のティーダ君17歳。アーロンは思わずこめかみを押さえると、一呼吸おいてから言った。
「筆記具を出せ。で、ラクガキをスピラ共用語になおして書き写せ。ここには読むことが目的ではなく、何が書かれているか知るために来ているのだからな。」
「おっさんが途中でチャチャ入れるから、わからなくなったんじゃないか・・・」
「入れた覚えはないワ!!」
アーロンはピシャリと言い捨てると、サッサとルカ港1番ポートへもどって行ってしまった。



お昼を少々過ぎた頃、飛空艇はナギ平原の旅行公司横に一行を降ろして上空に舞い上がった。
「さてと、そのでっかいトゲってのは、どいつのことだ?」
「とりあえず谷の方に行ってみるっス。」

ナギ平原のそこここには、いったいどういう状況で出来上がったものか まったく不可解な形をしたトゲ状のものがいくつもある。あちこちに連なった旅人の足をにぶらせる いくつもの亀裂をたくみに除けながら、ティーダ・ワッカ・リュックの3人は谷側に向かって駈け出していった。

「あのモルボルだけは、どうしてもイヤなの。」
と言うルールーのもっともな主張に今日ばかりは正宗を装備したアーロンが、キマリとともに女性2人を守りつつ後続移動。見ると、谷の近くにある なるほど大きめのトゲ状のものの傍でティーダ達がワキャワキャと論議の真っ最中。
「ユウナ〜ん。」
こちらを見とめたリュックが早くおいでと手招きをしてみせた。

「何か見つけたの?」
「それがさ・・・」
「また、ラクガキ。」
大きなトゲには数字が刻まれていた。
「でさ、どうするかなんだけど・・・」
「?」
数字は探求者を導く謎のようなもので、示されたとおりに移動していけば次のヒントなり、めざすアイテムにたどりつけるだろう・・・ということは容易に想像ができた。が・・・

「問題は移動方法なんスよ。」
「?」
「数字しか書いてないっス。たとえば、この数字が歩数だとしても、歩いて測るのと、走るのと、ここにはいっぱい住んでいるチョコボに乗るのとでは、だいぶ違ってくると思うし・・・」
ラクガキの数字には単位らしきものが抜けていたのである。
「で、まずは歩数だと仮定して49の7を移動してみようと思うんだけど・・・」
「ん?」
「これ書いた人がどのくらいの歩幅の人だったか、さっぱりわからないじゃん。」
「・・・・・。」
「リュックみたいに小柄な人だったかもしれんし、キマリみたいに歩幅でかかったかもしれん。でさ、この際皆で数えながら移動してみたらイイんじゃないかって。」
4人は一応に納得してうなずいた。
「あ、おっさんはチョコボね。」
「は?」
「ほら、例のスプリンター呼んでチョコボに乗って測ってみてよ。」
「・・・・・・。」
アーロンは複雑な表情を浮かべた後、高く指笛を吹き鳴らした。待つほどもなく数羽の野生チョコボが駆け寄ってくるのが見えた。
「一羽でいいんだけどな〜」
クックと笑うティーダに苦虫を噛み潰したような顔をしたアーロンは、それでも(ナギ平原へ行くということで用意してきたのか)懐からいくつかの野菜を取り出して、寄ってきたチョコボに与えている。
つくづくまめな男だなァ・・・とキマリは感心してながめていた。

「じゃさ、ここスタートで49行って右に7ね。」
「OK」
一人出発、二人出発・・・。提案に納得はしたものの
「なァ、キマリ、俺達 はたから見たら、ずいぶん酔狂なことをやっているようにおもわれるんだろうなぁ。」
「・・・・・・・・。」
好物の野菜をもらって上機嫌そのもののチョコボ達に取り囲まれながら、アーロンとキマリはそっとため息をついた。


「あったァ!!」
幸いにして歩数説はあたりだったらしく、ティーダが測った位置にあった「トゲ」に次のラクガキが刻まれていた。
「我を背に20、右に20ね。」
「よっしゃ、ティーダ、20行って20だ。ほれ、歩いた歩いた。」
「うへぇ・・・」
歩く必要のなくなった一行が見守る中リュックにせかされた青年はナギ平原をあちらにペタペタ、こちらにノコノコ・・・。

     やがて、

「あれ?帰ってくる。」
「ダメだったのかしら?」

不思議に思った5人の横を
「二重丸、二重丸・・・」
と、つぶやきながらティーダとリュックが通り過ぎる。そして
「あった!!」
リュックが地面に二重丸の模様を見つけておおハシャギ。
「パスワードだ!!えと、ごっどはんど だって。よぉっし〜、帰って入力するぞ〜」
「で・・・」
「え?」
気がつくとまわりに待ち組御一行様がずらり。

「アレ、あれっ?ここって、もしかして。」
「もしかしなくても、ここだろうが。」
最後のラクガキが掘り込まれていた場所は谷の近くにある大きなトゲの谷側の地面。つまり、スタートの落書きが書かれていた場所のちょうど「トゲ」の裏側だったのである。
「〜〜〜〜〜〜〜。」

「ひょっとして、俺ら、おちょくられただけと違うのか?」
「その可能性あるかも・・・」
いかにもムカついたという態度で、なにやらアルベド語(スラング?)で叫びまくっているリュックをしりめに、待ち組の面々はポソポソとささやきあった。
「そういえば、昔よくあったぞ。あそこを見ろ、こっちに行けというメモを追っていくと、最後に上を見ろとか矢印があって、見上げると、そこには、バカが見る〜とか書いてあるわけだ。」
チョコボの耳穴の下あたりをコリコリと掻きながら、アーロンが真顔で言うと、素直なユウナがプッと吹きだした。
いったい、ベベルでどんな僧兵時代を過ごしてきたのですか・・・キマリは思わずため息をもらしていた。


あきらめ半分で入力した、ふざけたパスワードであったが、それ自体は正確な本物であったらしく(ヒント書いたヤツはどんなヤツだったんだ?!)飛空艇は新たな移動用ポイントを入手することに成功した。
「え、マジ?本物だったの?」
リュックは、さっそく移動にトライ。キノコ岩付近の深いクレパスの奥底へ降り立つことができた。

「くっらぁ〜い。見えないよォ〜」
彼女の不満に答えるように、手早く枯れ枝らしき物をいくつか集めてきたキマリが、器用な手つきで松明を作り上げる。

途中、上空から巨大なガルダが飛来したが、ルールーから
「うざいのよ。」
の一言とともに、サンダガが炸裂。魔物を粉砕すると同時に一行の沈黙をさそったのはご愛嬌。

     そして・・・

しだいに先細りする暗いクレパスの最奥に、いったいいつの時代に置かれた物か、その箱は人知れず眠っていた。
「ティーダぁ、鏡、鏡ィ!!」
箱のどこを見回しても開くためのキーを見つけられなかったリュックが、喜色満面でせかす。期待に応えるように反応した「七曜の鏡」が箱そのものを霧散させると、そこには、直接腕に装備して使用すると思しき かなり特殊な形態をした赤い武器が出現していた。
終始にぎやか担当と自称するリュックが、これ以上なく慎重に無言でそれを拾い上げる。そっと全体を確認した後、右腕に装着を試みた彼女は、それがまるであつらえたようにピッタリとはまりこんだとたん
「やぁったぁ〜!!」
と叫んで50cmほどは飛び上がっていた。


その日の夕食後、マカラーニャの森にある誰からともなく言い出された「七曜の聖地」に、せっかくだからと武器のレベルUPに出かけていったリュック・ワッカ・ルールーを待ちながら、飛空艇のブリッジはにぎやかな談笑に包まれていた。
リンさんが入手したという爽やかなハーブを使用したホットドリンクがまわされ、バトル以上に激務だったんじゃないかとささやかれる技師達を癒した。

「こうなると、残るのはキマリの武器ね。」
「槍なんていうのは古来から代表的な武器だったわけだろ?オレ、きっとどこかに、すンげえ槍が眠っていると思うっス。」
「それ、なんとか見つけたいよね。」
ユウナに言われてキマリはなんとなくテレテレ。大きめのマグカップにつがれたハーブティを一口すすった時、扉がシュンと開いて、とてつもなくにぎやかな一行が入ってきた。

「さぁ〜〜て、やる気でてきたよ〜〜。次は聖印とかいうの探して、もういっちょ武器をパワーUPさせるんだからァ。ってことで、よろしくぅ!!」
思わずむせ返るキマリ。とっさに差し出されたアーロンの手ぬぐいを口元にあてて場をしのぐ。ユウナがあわててキマリの背をさすってやっている。
「なんか、こうなる予感は、あったんだよな・・・」
ティーダは、一様に青ざめた技術者たちを見回しながら気の毒そうにつぶやいていた。

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